ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者の三宅香帆と考える、新時代の女性の働き方とは
5. 「ノイズ」を取り入れよう
「読書の良さは“ノイズ”があることです。ネットで検索して自分が求める情報だけ手に入れる作業には、ノイズは発生しません。読書にはさまざまな情報との偶発的な出合いがあり、自分とは全く関係ない文脈をもたらしてくれます。強制的に自分や仕事のこと以外を考える時間になり、そこから離れる思考の訓練になります。 一方で、ノイズはコントロールできません。忙しくて心に余裕がないときは、思わずイラっとしてしまうかもしれません。『花束みたいな恋をした』の麦が読書をせずにスマホゲームをするのは、コントロールできるエンタメだから。よくタイパ(タイムパフォーマンス)がいいといわれますが、それはやらなきゃいけない義務を減らすというより、自分が求めるものだけを最少の時間で獲得すること。社会全体がノイズ除去に向かいつつありますが、果たしてノイズのない社会は理想的でしょうか。アプリで誰かと出会ってデートをすることもノイズにあふれています。子育てもアンコントローラブルなノイズだらけ。恋愛や生活を楽しむにはノイズを受け入れる余裕が必要です。 考えてみると、私たちの身体もコントロールが利かないノイズだらけ。休むことに寛容な社会のほうが、長く働き続けることができ、結果的に経済効率が上がったり、少子化の解決にもつながったりするのではないかとも思うのです」
6. 新しい時代の働き方をエンパワメントする小説・漫画
「今年ドラマ化されたひうらさとるさんの『西園寺さんは家事をしない』は、主人公の西園寺一妃も楠見俊直もバリバリ仕事をするのが好きな人たちです。それが、子育てをすることになり、仕事のやり方を再構築するという、共働き時代の理想の姿を描いた作品です。 働くやる気を与えてくれるという点では、高殿円さんの『上流階級 富久丸百貨店外商部』という小説シリーズもおすすめです。兵庫・芦屋のセレブを相手に百貨店の外商員として働く鮫島静緒が主人公です。彼女は働くことが好きで、働きぶりも痛快ですが、なにより1億円でクルーザーを貸し切るような超高額の買い物は無条件に面白い。 韓国の作家、チャン・リュジンさんの小説『月まで行こう』は、仮想通貨でひとやま当てようとする女の子3人組のお話です。胸がスカッとする面白さがあり、読むと元気が湧いてきます。とはいえ“半身で働く”人たちを描いた小説や漫画はまだまだ足りないと感じているので、もっと出てきてほしいですね」