時代を見るためSNS活用 写真家コバヤシモトユキの生き方
SNSはフォロワー数より内容 アマチュアの人々と交流も
そんなコバヤシさんがSNS全盛時代の今、自身のプロモーションをはじめネットを活用しているという。 「SNSは内容だと思っているんです。フォロワー数よりも本当に好きな人に本当に届けたい。なのでプライベートの日常や音楽など、写真以外のこともツイートします。今はそういう時代なのかな。写真家も、ある程度プライベートな部分も入れての写真家なのかなって思うんです」 そして、アマチュアの人々とネットを活用して幅広い交流の機会を持つ。2015年から毎月1回、ワークショップ『CAMERA &FRIENDS』を開催しモデル撮影のレクチャーをしている。アマチュア作家にとっては、一流の舞台で活躍してきたコバヤシさんやゲストフォトグラファーから直接指導を受けられる貴重な機会になっている。 「いろんなことをやってきたので人生散らかり過ぎて、僕自身は今後は新作よりまとめにかかる時期かなと。そんな中でやり残してきたのがアマチュアとの交流だったんです。僕が憧れた先人たちはアマチュアと交流してきたんです。植田正治さんが自分のギャラリーで人を集めて撮影旅行に行って、そういう中から名作が生まれたりしました。僕の人生もアマチュアの人たちとの交流を続けないと理想の形にならない。アマチュアの人たちからイチ推しのモデルさんを撮った作品を公募して展示する『TOKYO models』もその一つです」
ネガ燃やされた少年時代 一番大事なものは『記憶』
コバヤシさんは広告、ファッションをメインに活動するとともに写真作家としての活動も重視してきたが、作家性の源泉を探ると話は子ども時代にさかのぼる。 「父親の影響で4歳の頃からカメラを持っていたんですが、中学生のとき僕が勉強しないのを見かねて『写真はやめろ』って言われてネガを全部、庭で燃やされてしまったんです。その炎を見ながら涙で、親がなれなかったカメラマンに僕がなってやろうと思いましたね(笑)」 4月15日まで「新宿 北村写真機店」で開催中の個展『Eclipse 2041 20年後のポートレート』は、そんなコバヤシさんの作家性の最新の発露ともいえる。「今から20年後、僕らはどんな写真を撮っているのでしょうか? 写真を取りまく環境はどう変わっているのでしょうか?」そんなコバヤシさんの問いかけが形になっている。 「写真を撮るたびにタイムリミットを考える年代になってきちゃった。あとどれぐらい撮れるのか。その中で今までの人生を振り返って一番大事なものは『記憶』ではないかと。なぜ写真を撮るのか、ということをすごく考えていたのですが、たとえばかわいい女の子を撮るとしたら、その子によって新しく記憶を塗り変えていきたいから撮るのではないでしょうか。記憶こそが人間の生きた価値です。これからはものを所有するより記憶を共有する価値観の時代が訪れつつあると思っています。その記憶をどう伝えていくのか? それを一度考えてみませんか、という僕の提案なんです」
写真は、記憶を再構成し追体験する手段たり得るのか。子どもの頃、涙にかすんだネガの炎の記憶が今、未来の写真を見据えるマインドへと昇華した。コバヤシさんの今後の活動に注目したい。 (写真と文:志和浩司)