クラウドファンディングが大学を救う? 落合陽一氏の試みが地方国立大に広がる背景とは
インターネット上で広く資金を募る「クラウドファンディング」が大学で広がり始めている。その嚆矢(こうし)は筑波大学の落合陽一准教授だという。その後、他大学でも活用の動きが出てきたが、特に活発なのが地方の国立大学だ。なぜ大学はクラウドファンディングの活用に乗り出しているのか。背景にはこの20年の間に打ち出された国の科学研究に対する政策の変化がある。関係者を取材した。(文・写真:科学ライター・荒舩良孝/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
落合陽一氏がきっかけで始まった大学でのクラファン
東京・お台場の一角にある日本科学未来館。職員用エレベーターを3階で降り、人けのない長い廊下を進んだ先に、にぎやかな展示エリアとは異なる研究エリアがあった。そのうちの一つに足を踏み入れると、コンピューターとアートが融合した作品が目に入ってきた。
リアルタイムで自動的に音声を書き起こす透明ディスプレイ、筋肉に電気刺激を与えて楽器演奏ができるようにするシステム、木材が互いに支え合い波打つ形状をしているアート作品──。 これらはいずれも筑波大学図書館情報メディア系の落合陽一准教授率いるデジタルネイチャー研究室やデジタルネイチャー開発研究センターの学生が開発に関わり、昨年10月に未来館で展示されたものだ。 ただ、学生の研究としては珍しい点があった。その資金はクラウドファンディングによって集められたものだったのだ。 「クラウドファンディングは誰がお金を払ってくれたのかが分かる。学生にとっては、研究へのコミットメント(関与度)が上がりますね」
そう語るのは、クラウドファンディングで支援を呼びかけた落合准教授だ。 落合准教授は、デジタルネイチャー研究室と、それを発展させたデジタルネイチャー開発研究センターの企画で2016年からクラウドファンディングを4回実施し、計4200万円ほどの資金を獲得してきた。その資金は、学生の研究費や研究室の運営費などに充てている。科学未来館にある研究エリアの入居費用も一部賄っているという。 「我々の研究室は政府からの科学研究費、企業からの委託研究費などに恵まれていて、資金的には困っていません。ですが、個々の学生たちが新しい研究をしようと思っても、それを行う資金がないのです」