クラウドファンディングが大学を救う? 落合陽一氏の試みが地方国立大に広がる背景とは
落合准教授は、東京大学の大学院生だった2014年ごろからテレビ出演や本の出版などによって知名度を得ていた。そこで、筑波大学に助教として着任した直後の2015年から研究室の運営費の一部をクラウドファンディングで集めようと考えた。研究者個人がクラウドファンディングに取り組む例はあったが、当時の大学には教職員としてクラウドファンディングに取り組む環境は整備されていなかった。着任直後に研究室備品をそろえようと物品の提供を募ったときのことだった。 「アマゾンの『ほしい物リスト』をつくって公開し、たくさんの人から物資を送ってもらいました。ところが当時、大学が不特定多数の人から寄付を受ける仕組みがなく、事務処理が大変だったようです」 落合准教授から相談を受けた筑波大学は、教員がクラウドファンディングで資金集めができるように大学の規則を整備。日本でクラウドファンディングの草分け的な存在だった「レディーフォー」を通じて、幅広く支援を募る体制を整えた。手始めに2016年3月から5月にかけて、落合准教授の研究室のプロジェクトで人材育成のための教育研究への支援を呼びかけ、192人から計939万円を集めることに成功した。 「クラファン(クラウドファンディング)は、特に学部生の研究には重要ですし、我々の研究を応援してくれるファンの方々と定期的にコミュニケーションが取れる重要なタスク(仕事)でもあります。顔の見えない研究は、非常に味けないものですよ」
地方の国公立大などに広がり60校以上が活用
インターネット上で不特定多数の人たちから資金を募るクラウドファンディングは幅広い領域で利用されている。日本では東日本大震災の復興支援などをきっかけに広がり、現在は商品やサービスの開発費から映画制作費、音楽フェスの運営費まで様々な目的で活用されている。 その対象に、大学の研究費も加わるようになってきた。
大学における研究費は、主に2種類で構成されている。一つは大学から配分される資金。文部科学省から交付される運営費交付金(私立大学の場合は補助金)や学生から納められる授業料などを原資とする基盤的な資金であり、机や棚、消耗品、電気代など研究室の運用を維持する基本的な経費に充てられる。 もう一つが、研究計画に対して日本学術振興会から交付される科学研究費補助金等をはじめとする外部資金、いわゆる「科研費」等だ。だが、科研費には審査があり、確実に得られるわけではない。また、研究と直接的に関係のあるものにしか使えない。つまり、学生にとっての活動資金はほとんど含まれていない。 筑波大学は2016年11月からレディーフォーと業務提携し、これまでに30近いプロジェクトを実施してきた。こうした動きはすぐに、東京藝術大、大阪大、九州大などへと広がっていった。レディーフォーは今では地方の国公立大学を中心に60校以上の大学と提携している。これまで400件以上のプロジェクトを公開し、合計で約20億円の資金が集まったという。