お手頃ランチに忍び寄る「インフレ」 一杯の豚バラ丼から見えた日本経済の苦境
「お手頃ランチ」に異変が起きている。代名詞といえる牛丼チェーンや大手レストランがこの秋、相次いで値上げを発表したのだ。原料となる食材の価格高騰や、原油高による物流費の上昇などが要因だという。しかし街の小さな飲食店に密着すると、常連客を失う怖さから値上げに踏み切れず、存続の危機に陥っている実態が見えてきた。コロナ禍からいち早く経済回復した中国の圧倒的な需要、仕入れに苦悩する総合商社、各国中央銀行の危機感――。新型コロナウイルスのワクチン接種率が7割を超え、ここから本格的な景気回復に向かいたい日本の経済に何が起きているのか、一杯の豚バラ丼から探った。(取材・文・写真:NHKスペシャル「景気回復vs.インフレ」 取材班/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
名物「豚バラ丼」襲うインフレ
「こんな短期間での原価高騰は、24年間、店をやっていて初めてです」 第5波の緊急事態宣言が明けた10月下旬。神奈川県藤沢市で、「里のうどん」という飲食店を2店経営する西嶋芳生さん(56)の顔色は暗かった。この日、取引のある食材卸業者から届いたのは、サラダ油の値上げの知らせ。今年に入って4回目で、年初から実に1.6倍以上のアップだった。
西嶋さんが営むのはうどん店。だが名物は意外にも豚バラ丼だ。特製の甘辛いタレで炒めた豚バラ肉と、たっぷりのキャベツをのせた丼はボリューム満点。過去には、全国の優れた丼を表彰する「全国丼グランプリ」で金賞にも輝いた。一番人気は、この豚バラ丼とうどんのセットで、6割もの客が注文するという。価格は店舗によって異なるが、藤沢駅近くの南藤沢店ではランチ時に951円(税込み)で提供している。 しかし今、この人気セットが原価高騰の波に脅かされている。サラダ油のみならず、お好みでかけるマヨネーズや、うどんに使う小麦粉も値上げ。特に痛手なのが、豚バラ丼の主役である豚バラ肉で、約20%の値上げを卸業者から言い渡された。合計すると、年間で220万円もの原価アップが見込まれてしまう。