お手頃ランチに忍び寄る「インフレ」 一杯の豚バラ丼から見えた日本経済の苦境
さらに、中国国内では豚肉増産を目指し、通称“豚ホテル”と呼ばれる巨大養豚場が急増。影響は、豚のエサ(飼料)となるトウモロコシや大豆にまで及んだ。実はトウモロコシや大豆は食用油の原料にもなるが、中国での豚肉需要が加わり、争奪戦が始まっている。両方とも先物価格は過去5年で最も高い水準まで上昇し、食用油の値上げとして西嶋さんの店にも影を落とす結果になっている。景気回復に沸く14億人の“爆食”が、食の原材料価格をつり上げ、巡り巡って「豚バラ丼」を脅かす一因となっているのだ。
世界で加速するインフレ 苦悩する商社
このままでは日本の景気が再び後退しかねない――。輸入の最前線に立つ大手総合商社の中には、世界で加速するインフレに危機感を持って取り組む社もある。 その一つである丸紅を取材すると、まさにトウモロコシをめぐるせめぎ合いが熾烈を極めていた。日本の飼料メーカーからは「できるだけ安く確保してほしい」と依頼を受けている。「スーパーに並ぶ肉の値段が上がっているのを見ると、飼料価格の上昇を意識せざるを得ない。プレッシャーもあるが『1ドルでも安く』という使命感を持って調達したい」。穀物課の●(※もくめ)拓郎さん(31)は意気込む。
だが現実は厳しかった。北米のトウモロコシ産地の農家からは、世界中の圧倒的な需要増を突きつけられる。家畜のエサとしてだけでなく、食用油、自動車向けのバイオエタノール、化学繊維など、さまざまな用途で需要が急拡大しているというのだ。結局コロナ前から1.6倍の高値で買わざるを得ない。しかも中国の輸入増で輸送船も調達困難になっており、こちらもコロナ前の2.5倍の高値で何とか確保。仕入れ値と輸送費が二重にのしかかる世界の現状に、日本の商社は打つ手が限られているのが実情だ。 「値段が下がる理由は正直全く見当たらず、食料自給率の低い日本としては危機感を持たざるを得ない。このトレンドからは逃げられないので、安定供給のために精いっぱい努力していきたい」。●(※もくめ)さんはため息をついた。 (※)…●は「きへんに也」