数年の猶予が得られても、妊娠の期限は確実に迫る──1回あたり最大100万円が目安、サービス提供側の思い #卵子凍結のゆくえ
結婚の「適齢期」という言葉をあまり聞かなくなった。だが、妊孕性(にんようせい、妊娠するための力)に関しては、男女ともに年齢の制限がつきまとう。女性の場合、その主な原因は卵子の老化だ。解決策の一つとして期待されているのが、卵子凍結技術。女性の生き方の選択肢を増やす希望となりうるが、そこにリスクや問題点はないのか。凍結卵子の保管やカウンセリングを行うプリンセスバンクの代表・香川則子さんを取材した。(取材・文:寒竹泉美/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
妊娠の可能性を残し、高められる技術
「仕事の状況やパートナー探しなど、自分ではどうにもできない要素が多いなか、未受精卵の凍結保存が一つの保険となることは確かです。実行したことで精神的に安定するのか、そのあとにパートナーと出会ったという話もよく聞きます」 卵子凍結保存サービスを行うプリンセスバンク(東京都中央区)の代表・香川則子さんはそう話す。女性の体内から卵子を取り出して凍結して保存し、しかるべきときにパートナーの精子と体外受精(顕微授精)して妊娠・出産するこの技術は、もともとは悪性腫瘍などに罹患した女性患者のために始まった。放射線治療や化学療法で、妊孕性が失われると予測された場合に、あらかじめ卵子を保存しておく。そうすれば、妊娠の可能性を残すことができる。 しかしそのような「医学的適応」だけでなく、将来に備えて若いときの卵子を凍結保存しておく「社会的適応」のニーズも高まっている。 同社はカウンセリングと凍結卵子の保管業務のみを行っている。凍結保存を行うと決めたらクライアントの希望に合わせて提携している病院を紹介し、診察や採卵をしてもらう。 「将来的に子どもが欲しいけれどまだパートナーがいない方や、30代後半になって仕事の関係で2~3年は妊娠が難しいという方、結婚のタイミングが40代になりそうだけれども将来的に子どもを2~3人希望している方など、さまざまな理由で相談に来られます」(香川さん) 若いうちに卵子を凍結すれば、卵子の老化を止めることができる。では、妊娠・出産をするうえで、どのくらいメリットがあるのだろうか。日本産科婦人科学会「ARTデータブック(2019年)」によると、体外受精における生産分娩率(生きた子が出産される率)は30歳では22%、35歳で19%、40歳では10%、45歳では1%にまで下がる。ドナー卵子を用いた場合は、このような急激な低下は起こらないことがアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の発表したデータからわかっている。つまり、30歳で凍結した卵子を40歳のときに使えば、統計上は卵子凍結を行わなかった場合と比べて、生産分娩率は2倍以上に高まる。