お手頃ランチに忍び寄る「インフレ」 一杯の豚バラ丼から見えた日本経済の苦境
経済学の理論にのっとれば、物価が上がっても価格に転嫁することができれば企業の利益も増え、働く人々の賃金に還元できるはずである。だが現実はそうなっていない。ましてや日本の平均賃金は30年前から伸び悩んでいて、イギリスや韓国にも追い抜かれた。もともと苦しかった日本人の懐を、コロナ禍のインフレ圧力がさらに痛めつけている。「まさに、景気が上向かない中で物価だけがどんどん上昇する“スタグフレーション”です」――。西嶋さんは今の窮状を、そう評した。
「豚バラ丼」ショック 震源地は中国
昨年、世界中の動きを止めた新型コロナのパンデミック。谷底に落ちた世界経済は、ワクチンが行きわたるとともに再び回り始め、猛烈な勢いで動くようになった。そのため需要に供給が追いつかず、食材以外に原油や金属など、さまざまなものの値段が急騰している。 だが今回のインフレ要因は、こうした景気回復による急激な需要増だけではない。皮肉にも、経済を立て直そうと各国の中央銀行が導入してきた大規模な金融緩和策が背景にある。かつてない規模の金融緩和策によって市場にマネーが供給され、その恩恵を受けた投資家たちは、あふれたマネーを株などの金融商品だけでなく、原油や穀物、金属などの先物市場にも投資している。ロックダウン(都市封鎖)で一時的に需要が落ち、値下がりしたタイミングで買えば、経済が動き出すとともに値上がりが見込める格好の投資先だからだ。しかしその結果、生活必需品の価格高騰に拍車をかける陰の要因になってしまっている。 さらに日本の立場で見ると、経済の立て直しに一歩出遅れたことも痛手だった。アメリカや中国は一足先にワクチン接種を始め、経済活動を再開。高い成長率を再び取り戻す中で、物価が上昇している。だが日本は、今がまさに景気回復の正念場という局面で物価の上昇に見舞われている。この差によって、日本はスタグフレーションに陥るのではないかと指摘する専門家もいる。 例えば、西嶋さんを苦しめる「豚肉の高騰」に目を向けると、その震源地は中国だ。ここ最近は減速しているとはいえ、今年に入ってGDP(国内総生産)の伸び率がプラスを維持している中国では今、豚肉の需要が急拡大している。昨年は世界の豚肉貿易量の約半分を占める528万トンを輸入し、世界の豚肉価格を押し上げた。