「いまの漫画は下手」 『DRAGON BALL』元編集者が語る漫画の描き方とビジネス #昭和98年
──週刊なのでスケジュール管理が難しそうです。 「そもそも漫画って何でできていると思いますか? コマ、セリフ、絵……とありますが、このうち、なくても成立するのが絵なんです。絵はセリフを強調するためにある。『あ』という言葉。その『あ』は悲しいのか、うれしいのか、それを表現するのがキャラの表情なんです。だから、漫画を描くうえで、最初の絵コンテ、ネームが一番大事。そこで作品の80%が決まるし、そこを議論します。電話で何ページ目の何コマ目だけどさ……と。漫画家は一週間のうち2、3日を絵コンテに使う。絵を描く時間はだいたい2日です」 ──速さは連載において必須要素ですね。 「毎日同じことをしていれば誰でもうまくなるし、速くなりますよ。漫画家にとって絵を描くことは、ほぼ機械的な作業です。むしろ難しいのが絵コンテ。ストーリーを考え、コマを割って、絵コンテをつくる。ここが速い人は『この辺でいいか』と妥協的に決断できる人。完璧を目指して進めなくなるほうがつらい」 ──編集者には作家にストーリーを提供して作っていく人もいます。鳥嶋さんはどうですか。 「大きな流れは話し合いますが、あくまでも作家に考えてもらう。どんなにつまらないものでも、必ず描いてもらう。目の前に素材がないと打ち合わせできませんから。編集の作業は引き算や整理であって、プラス作業じゃない。編集者主導で作った漫画もありますが、大概つまんない。なぜなら描く人の価値観が作品に出るわけです。作家の中の『これを描きたい』というものがキャラクターになるし、物語になる。編集者がするダメ出しというのは、それを読者に伝わりやすくするための仕事。作家の中にないものを形にしても面白くないし、そういうまがいものは続かないです」
「終わり方」は第一に「漫画家が描いていて楽しいか」
──『DRAGON BALL』は、当初は冒険ファンタジーでしたが格闘アクションに変わります。これはどういう経緯ですか。 「連載で人気が落ちてきたときに、なぜだろうと2人で考えて、悟空のキャラクターがはっきりしていないと。じゃあ、どういうキャラにするかと議論して、強くなりたいと。そこで亀仙人と悟空を残して、いったん他のキャラを捨てた。修行させてその結果を天下一武道会で出そうと」 ──その少し前に、同じジャンプで『キン肉マン』がギャグ漫画からプロレス漫画に変わり、人気になりました。この影響はありますか。 「いや、他の漫画は関係ないです。あくまでも鳥山さんがキャラを動かすときに、面白く思えるかどうか。それと読者の反応です。戦いがスケールアップするのは、ピッコロ大魔王が出てきたときですが、このキャラを作るのは議論しました」 ──物語の展開が大きく変わる敵役の登場でした。 「このとき、鳥山さんは本当に悪いキャラというのをイメージできなかったんです。そこで毎日、1人ずつ僕が歴史上の悪い奴の名前とエピソードの話をしていった。ヒトラーから始めて、6人目か7人目でローマ帝国の皇帝ネロの話をした。人が苦しむ表情や声を見聞きして快感を覚える人間。そしたら、鳥山さんが『分かる』と。そこでできたキャラでした」