10代の頃から漫画を語り合っていた――亡き親友の大作「ベルセルク」を完結に導く漫画家・森恒二の信念
全世界の発行部数が電子版を含め6000万部を超える、ダークファンタジー漫画「ベルセルク」の作者・三浦建太郎が2021年5月に54歳という若さで急逝した。それは1989年から32年にわたり描かれた大作の未完を意味した。ファンや漫画界は騒然となるが、2022年6月から漫画家の森恒二(56)と三浦の弟子たちにより再始動するという一報は、作者の死と同様に大きな話題となった。生前、三浦と語り合ったこととは。そして、「ベルセルク」再開への思いは。森恒二に聞いた。(取材・文:杉山元洋/撮影:長谷川美祈/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/文中敬称略)
10代の頃からキャラになりきって寸劇をしていた
「(三浦の訃報は)普通に電話で話した3日後くらいですから。本当に大変なことになったという感じが今もまだ抜けないです」 そう話すのは、再開した「ベルセルク」の監修を担当する漫画家の森恒二だ。 「三浦が『最終回を描くのが本当に楽しみなんだ』と、繰り返し熱心に語っていました。『ベルセルク』には濃密なビジュアルでしか到達できない魅力がありますが、特に最終回は、漫画でしか表現できないものなんです」
「ベルセルク」は、中世ヨーロッパを思わせる世界を背景に、身の丈を超える巨大な剣「ドラゴンころし」で戦う主人公・ガッツの旅路を描いたダークファンタジー。日本だけでなく世界の読者をも魅了した。三浦が急逝したのは、30年以上にも及ぶ長期連載で描かれた旅が終焉に向かったかにみえた矢先のことだった。
森は高校時代に三浦の実家に身を寄せ、ひとつ屋根の下で暮らしたこともある。2人は親友だった。
「『ベルセルク』は連載が決まる前から、三浦に物語を聞かされ一緒に考えてきたんです。僕が結婚して、妻と3人で食事するときも、お互いがキャラになりきって寸劇をしてね。三浦も自分も10代から寸劇をやってるから、いい年になっても変えられないですよね(笑)。三浦が何十回も同じシーンを話すので、かなり記憶に残っています。私が覚えてないと、三浦が怒るもんですから。 序盤最大の山場である“蝕(しょく)”のエピソードを構想する際に、三浦の部屋に2人で閉じこもって、1週間かけて最終回まで練り上げました。恐ろしいことに、ストーリーはもちろんセリフまで当時決めたままに描かれているんです」と森は振り返る。 三浦と森は、「お互い何かあったら続きは頼むぞ」と冗談で誓い合った仲。「その冗談を、こんな形で果たすことになるとは思いませんでしたよ」と森は、言葉を詰まらせる。