伊勢丹をやめたら負け犬になる──元日本代表・吉田義人が天国と地獄のラグビー人生を語る
31歳だった吉田は入団テストを経て、日本人初の1部リーグプロ選手としてフランスのUSコロミエに加入した。故障などもあって1シーズンで帰国したが、地域に支えられたクラブ運営や、生活の全てをラグビー中心に考えるプロフェッショナリズムに触れた意味は大きかった。 「アマチュアは仕事をして給料をもらってる。プロの選手はそれを職業にして、人生をかけてるんです。生きざまが違うんですよ。それまで俺は他のプロ選手と対等に話す自信がなかった。これから日本のスポーツ界で貢献していこうと思ったら、プロを知らないといけない。どうせプロになるのなら、俺の理想のラグビーを表現しているシャンパンラグビーのフランスに行きました」 フランスから帰国して三洋電機(現・パナソニック)などでプレーした吉田は、35歳で現役にピリオドを打った。
いま、日本代表に全盛期の吉田義人がいたら…
引退後は横河電機(現・横河武蔵野)のヘッドコーチとしてチームをトップリーグに昇格させ、明大に監督として復帰して14年ぶりに関東大学対抗戦の優勝に導いた。9年前からは7人制のクラブチーム「サムライセブン」を設立して指導に当たるほか、今年4月には秋田工業のOB会強化部長に就任。月10日ほどグラウンドに立ち、母校復活に情熱を燃やしている。 一所(ひとところ)にとどまることを知らないエネルギッシュな生き方は、24時間戦っていた伊勢丹時代と何ら変わらないようにさえ見える。常に挑戦し続けていたい人なのだろう。 1980~90年代の国内での絶大な人気、それ以降の国際舞台での長きにわたる低迷を経て、いま日本のラグビーは新時代を迎えている。 吉田は「今の選手たちがうらやましい」と言う一方、「自分が生きてきた道に後悔はない。自ら行動を起こしたことで、学びや経験がいっぱいあったから」と穏やかな笑みを浮かべる。その栄光も挫折もたしかに日本ラグビーの礎石となっている。 最後にこんな質問をしてみた。客観的に見て、全盛期の吉田義人が今の日本代表に入ることはできますか。11番を背負って世界相手に戦うことはできるでしょうか──。 「日本代表、ぜひ選んで欲しいね。俺は最高の仲間たちと頂点を取るためにトライを取る。それがフィニッシャーの宿命だから」 その言葉を聞いて、左サイドを疾走する雄姿がくっきりと目に浮かんだ。
------------------------------- 吉田義人(よしだ・よしひと) 1969年2月16日生まれ。秋田県男鹿市出身。秋田工業高校、明治大学で全国制覇。19歳で日本代表入り。ワールドカップには2度出場。日本人初の1部リーグのプロ選手として、フランスのUSコロミエでプレー。35歳で現役引退。現在は7人制専門のクラブチーム「サムライセブン」の監督。 「ラグビーワールドカップ2023」が、2023年9月8日から10月28日まで開催されます(現地時間)。Yahoo!ニュースでは、オリジナルコンテンツを通して、大会をより一層楽しめる情報をお届けします。