「手術をしないと性別変更できない」は憲法に違反するか #性のギモン
性同一性障害の人が戸籍の性別を変える際、現在の日本の法律では、生殖機能をなくす手術が必要だ。この「手術要件」が憲法に違反するのではないかと訴える声が複数の当事者からあがっている。2022年12月には最高裁が大法廷で審理することを決定した。戸籍の性別変更に生殖腺の除去手術は必要なのか。2人の識者に考えを聞いた。(取材・文:長瀬千雅/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
手術をせずに戸籍の性別変更を望む
審理の対象となっているのは、生まれたときに割り当てられた性別は男性で、女性として社会生活を送っている人が、手術なしで戸籍の性別変更を認めるように求めたもの。1審、2審ともにこれを認めず、性同一性障害者が戸籍の性別を変更するのに、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする「性同一性障害特例法」の規定は、個人の尊重や法の下の平等を定める憲法に違反すると、最高裁に特別抗告した。 この規定については、最高裁が3年前に「合憲」とする判断を示している。その際の申立人は、生まれたときに割り当てられた性別は女性で、男性へ性別移行した当事者だった。 しかし今回の申し立てについて、15人の裁判官全員による大法廷での審理が決まったことで、異なる判断が出るか注目が集まっている。 法的な性別変更をめぐる法制度は国によって異なるが、手術を要件としない国は少なくない。戸籍の性別変更に生殖腺の除去手術は必要なのか。
手術要件をなくすには、法的・社会的な調整が必要 仲岡しゅんさん(弁護士)
今の日本では、戸籍の性別を変更するためには、2人以上の医師に性同一性障害の診断を受けた上で、「性同一性障害特例法」に定める5つの要件を満たさなくてはなりません。その要件とは、①18歳以上であること、②婚姻していないこと、③未成年の子がいないこと、④生殖腺がないことまたは生殖機能を永続的に欠くこと、⑤他の性別の性器に近い外観を備えていること、です。 ご質問の「手術要件」以外にも、「非婚要件」「未成年子なし要件」が憲法違反かどうかが最高裁まで争われたことがあり、反対意見はありましたが、いずれも合憲と判断されています。 生殖腺がない(④)、外観が変わっている(⑤)といういわゆる「手術要件」をなくすのであれば、法的にも社会的にもさまざまな調整をしなければなりません。それができていない段階において、無条件に要件をはずすのは、慎重になるべきだと思います。 前提として、MTF(male to female、出生時は男性だが女性として生きる)にとっての手術要件と、FTM(female to male、出生時は女性だが男性として生きる)にとっての手術要件は、同じではありません。 MTFの場合は、手術をして性器の形を変えれば生殖腺もなくなりますから、④と⑤は連動します。 一方、FTMの場合、生殖腺は体の内側にありますから、生殖腺をなくしても外観は変わりません。本人は手術を望んでいないのに、④を満たすためだけに、体にメスを入れなければいけないということが起こる。ですから、手術要件を廃止してほしいという声は、どちらかといえば、FTMのほうが強いんです。