「手術をしないと性別変更できない」は憲法に違反するか #性のギモン
その上で、手術要件を廃止するとしたら、どんな調整が必要になるか。 法的には、手術要件をなくすと、「非婚要件」(②)、「未成年子なし要件」(③)と抵触します。例えば、男性のパートナーがいる性同一性障害の男性がいるとします。手術なしで、戸籍の性別を女性に変更しました。二人は結婚できるようになります。でも、身体的には男性同士です。それって、同性婚を望む性同一性障害ではない方とのあいだに、著しい不均衡が生じませんか? あるいは、性同一性障害の女性が、手術なしで戸籍上男性になったとします。その人には、子どもを産む能力が残ります。すなわち、性別変更後の男性が出産することを想定しなければいけなくなるんですが、「男である母」が戸籍の運用上どのような扱いになるのか定かではありません。 また、性別変更する前に子どもを産んだ人は、③の「未成年子なし要件」によって(その子が成人するまで)性別変更できないのに、性別変更してからなら子どもが産めるという、著しい不均衡が生じることになります。 そういった法律上の矛盾をどうするのか、よく考えないといけない。 社会的には、手術なしでの性別変更を認めると、お風呂や更衣室などの身体をあらわにする場面で、書類上の性別と齟齬が生じる可能性が出てきます。 例えば、更衣室などで、たとえその人が戸籍上女性だとしても、男性器が見えたら嫌じゃないですか? そういう議論をするだけで「トランス差別だ」と言う人もいますが、いやいや、議論は必要でしょう。むしろ、そういった議論をしないまま手術要件撤廃だけが注目されてきたことが、今、偏見を煽っている人たちに利用されているともいえます。手術要件を撤廃するということは、これまで棚上げされてきたことを、議論の対象にしなければならないということを意味します。 そこで生じうる混乱を防ぐにはどうするか。仮に手術要件を撤廃するのであれば、例えばガイドラインを定めるなどして、身体をベースに男女が分かれているような場所では、戸籍上の性別とは違う取り扱いが可能になるようにしておく。そういった形で、社会的な調整をはかる必要が出てきます。