大阪市「オンデマンド交通」実験エリアが拡大 “反発一辺倒”だったタクシー業界が態度を軟化させた理由とは
昨春より大阪市内の3エリアで行われているオンデマンド交通の社会実験が、4月1日からは新たに北区・福島区の両エリアでも始まりました。実験を担う事業者としては、従来の大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)グループの他、バス事業者のWILLERが新たに加わっています。一方、タクシーのシェアが奪われるとして実験に反発してきた大阪のタクシー業界ですが、ここへきて実験への協力を拡大する動きも見せています。 【動画】会見でオンデマンド交通についての質問に答える大阪市の松井一郎市長
4月から新たに大阪市北区など5エリアで
オンデマンド交通は、予約に応じて車両を配車する交通サービスです。このうち、AIを使って運行ルートを割り出すシステムを採用する場合は特に「AIオンデマンド交通」と称します。大阪市で行われているのは、このAIオンデマンド交通の社会実験です。 実験は、2021年3月30日から平野区内の2エリア、生野区内の1エリアの計3エリアで始まりました。運賃はエリア内一律、大人210円。エリア内に点在する乗降場所を選んで、スマートフォンのアプリや電話で予約する仕組みです。 車両はワンボックス車で、1人でも乗れますが乗車する時間帯や行き先がある程度重なれば複数乗客の乗合輸送となります。実験を担うのは、大阪メトログループです。 4月1日から新たに実験が始まった北区・福島区の2エリアで運行を担うのは、大阪メトログループと、各地でオンデマンド交通サービス「mobi」を展開するWILLERです。 運賃はエリア内一律、大人300円。予約はアプリか電話、ワンボックス車の使用、JR大阪駅近辺を含む市の中心部を両エリア共通の運行区域とする点は両社とも同じですが、定期券運賃の設定など異なる点も一部あります。 実験期間は、5エリアとも4月1日から2023年3月31日までの1年間です。
タクシー業界協業拡大、そのヒントは地交会議での発言に
驚かされたのは、2月24日の大阪市地域公共交通会議(地交会議)で配布された大阪メトログループの全5エリアの提案書に、運行事業者として同グループの大阪シティバスに加えて、タクシー事業者が名を連ねていたことです。 過去の地交会議で、タクシーの業界団体である大阪タクシー協会(大タ協)を含むタクシー業界側は「AIオンデマンド交通はタクシーの類似行為」などと主張し、シェアを奪いかねないとして再三反発してきました。 確かに、電話かアプリで配車を予約して移動する、という利用の仕方はタクシーと似ています。しかも運賃はタクシーの3分の1以下とあって、神経を尖らせるのも無理はありません。実験開始後、大阪メトログループ側の要請で大タ協加盟社の一部が車イス対応車両の運行を受託しましたが、タクシー業界の反発姿勢は変わりませんでした。 そのタクシー業界が協業の拡大に踏み切ったのはなぜか。ヒントは地交会議での発言にありました。 この会議で、大タ協の坂本篤紀副会長は「採算を合わすために、自家用車の配車、いわゆる白タク配車につながれへんかなという懸念がある。そこだけ明確に答えていただければ何の心配もない」と発言。これに対して大阪メトログループ側は「大阪メトロとしては(タクシーなどの営業車が付ける)緑ナンバーでやっていきたいと思っています」として、タクシー業界との協業を望む旨を回答しました。 ここで言う「いわゆる白タク配車」とは、ウーバーなどが各国で展開するライドシェアサービスのことです。坂本氏の発言は、タクシーによるAIオンデマンド交通では採算が合わない場合、代わりにライドシェアが使われかねない、というタクシー業界側の危機意識を代弁したものと言えます。