大阪市「オンデマンド交通」実験エリアが拡大 “反発一辺倒”だったタクシー業界が態度を軟化させた理由とは
新規需要の創出が共通課題
運行委託の話は、大阪メトログループから大タ協に持ちかけられました。 大阪メトロの豆谷美津二・MaaS戦略推進部第3部長は「路線バスやタクシーでは取り込めない新規需要創出を図ることが実験の大きな目的です。コロナ禍で受容が低迷する中で、新規需要の創出はタクシー業界とわれわれとの共通課題だと認識しています。競合する部分がまったくないとは思っていませんが、それ以上に新規需要を見出すことが重要と考え『一緒に実証実験をやってきましょう』という形になりました」とタクシー業界との協業拡大の理由を語ります。 今年度の社会実験で、大阪メトログループは他の交通機関との連携に取り組んで、利用者の動きにどのような変化が現れるのかを検証する方針です。 大タ協の黒田唯雄常務理事は「(運行委託の話を受けて)協会内で議論の結果、反発一辺倒ではライドシェア導入の道が開けることも考えられなくはないことと、そもそも本来このサービスはタクシーで行うべき、と主張してきた経緯もあり、社会実験については協力することとなりました」と経緯を語ります。 決断の裏には、松井一郎・大阪市長が代表を務める日本維新の会が、ライドシェアを含むシェアリングエコノミー推進を掲げていることへの警戒感もあるものと見られます。 WILLERからも、同様に大タ協側へ運行委託の要請が来たそうです。もっとも同社の場合、他地域でもAIオンデマンド交通の運行をタクシー事業者に委託しているので、驚きはありません。両社の受託事業者は、大タ協経由で募集の上、選定されました。 こうした大タ協の動きについて、近畿大学経営学部の高橋愛典(よしのり)教授(地域交通論)は「これまでタクシーは公共交通としてあまりとらえられてこなかったので、このように政策に参画するようになってきたということは非常に大事なこと」として、タクシー業界の存在感を高められるという点で評価します。 ただし、大タ協側が協力するのはあくまでも社会実験の段階まで。「両社に対しては、採算ベースに乗らなければ本格運行には移行せず、速やかに撤退してほしいと伝えています」(黒田常務)ということで、警戒感を完全に解いたわけではありません。