安倍政権が残したものとは? アベノミクスの光と影
「7年8か月」「歴代最長」「アベノミクス」――。 安倍晋三前首相が辞意を表明し、1か月が経とうとしている。メディアでは上述のようなキーワードと共に、肯定的に評されることが多い。新型コロナ対応、閣僚の不祥事などによりじわりじわりと支持率が低下し続けたことがなかったかのように。安倍政権は確かに最長だ。しかし、肝心の「実」はあったのか。行政学者の目からフラットに見つめてみたい。(行政学者・佐々木信夫中央大名誉教授) 【年表】安倍政権「7年8か月」を振り返る アベノミクスから安保法制、コロナ禍まで
期間長くも、短期政権の連続?
8月28日。たまたまその日、首相の在任期間最長を祝う横断幕が山口県庁の玄関などに掲げられたことに対して見解を求められた筆者は「県が税金を投入し、政治的な中立性を求められる公務員の職場である県庁に横断幕を掲示する行為は、行き過ぎだ」(朝日新聞)とコメント。まさかその夕刻に辞任表明するとは露にも思わなかった。
安倍政権は選挙に強かった。この間、衆参選挙を6回行い首尾よく勝ち続けている。 しかし、一歩引いてみると、選挙の度毎(たびごと)に問題、課題をリセットしており、選挙と選挙の間の「短期政権」をつないでみたら、結果的に長期在職になっていた、と見ることもできる。課題先送り型の「長期在職政権」であって、吉田茂、佐藤栄作、小泉純一郎のような問題解決型の「長期政権」とは一線を画す。筆者はそう見る。 実際、本人も「日々、目の前の問題を解決することに一所懸命頑張ってきた。(その結果)長くなった」と述べており、それが率直な気持ちではないか。
大過なくは「大過に通じる」
この発想はサラリーマン(特に役人)が退職時ないし転勤時に述べる言葉、「大過なく職務を終えることができまして……」と似ている。 こうした無難な波乗り政治をやっているうちに、世の中は大きく変化している。基層で起きている人口の構造的変化、量的な縮小、質的な構成変化、極端な地域偏在に対応できず、問題を先送りしているうちに取り返しのつかない大過を犯していないか。 筆者なりの安倍政権評を記してみたい。