片岡義男の「回顧録」#4──Bobby’s Girlが名付け親~ 『ボビーに首ったけ』とヤマハRD250
片岡義男が語る、1970~80年代の人気オートバイ小説にまつわる秘話。第4回は『ボビーに首ったけ』とヤマハRD250です。 【画像】YAMAHA RD250ミニヒストリーの画像を全て見る(全6枚)
外国から日本へ輸入された、主としてポピュラーな楽曲を総称して、かつては洋楽と呼んでいた。この洋楽という言葉は、いまでもかろうじて現役だと思う。『ボビーに首ったけ』という僕の書いた短編小説は、洋楽の日本におけるヒット・ソングの、日本語題名をそのまま借用したものだ。マーシー・ブレインという女性歌手が歌った、原題をBobby’s Girlという歌の、日本における題名が、『ボビーに首ったけ』だった。1963年3月の『今週のベストテン』というラジオ番組の、上位20曲のなかでこの歌は10位の位置にあった。首ったけ、という言いかたは、少なくとも僕にとっては、相当に古めかしい言いかたであり、そこが面白くて記憶に残っていた題名だ。 それから10年以上あと、自分で書いた短編小説の題名に、僕はそれをそのまま使った。ストーリーを考えたあと、題名のつけようがなくて苦心していたとき、ふとこの題名を思い出し、そのまま使った。主人公の少年が、親しい友人たちから、ボビーと呼ばれていた、というひと言をつけ加えさえすれば、この題名がそのまま使えたからだ。ザ・バーズというグループの洋楽に、『君に首ったけ』という日本語題名のものがある。原題を直訳すると、「きみが好きになるだろうということはよくわかってたんだ」とでもなるだろうか。僕が知るかぎりでは、洋楽の日本語題名に、首ったけ、という言葉があるのは、この2曲だけだ。探せばもっとあるかもしれない。 洋楽の日本語題名をそのまま短編小説の題名に借用した例は、僕の場合かなり多いのではないかと自分では思っているのだが、列挙してみようとすると、思い浮かばない。『夕陽に赤い帆』というハードボイルドな短編は、書いた当人であるこの僕が、たいそう気に入っている。『昨日は雨を聴いた』という短編があると思う。『雨の伝説』もある。どちらも洋楽の日本語題名だ。10CCというグループの『人生は野菜スープ』という題名は、二度も使った。まったくおなじ題名で、別なストーリーをもう一度、書いたからだ。『俺を起こしてさよならと言った』という題名の短編も、内容とともに僕は好いている。この題名は1980年代のアメリカの、カントリー音楽の歌の題名にありそうだ。この頃のカントリー音楽の題名には惹かれるものがあり、なんとか小説の題名に使えないものか、と思案していた時期だ。『いつまでもとは、いつまでか』という題名の歌がウィリー・ネルソンにある。これは使えるはずだと、いまひそかに思っているところだ。 文=片岡義男