「売れる物を追求したとき、作家性はあるのか」 京都の一流織物企業の挑戦、かわいいミッフィーへの「躍動と解放」とは
祇園祭の山鉾の装飾や歌舞伎座の緞帳など一流の美術品からミッフィーとのコラボ商品まで、斬新な事業を手掛ける京都の龍村美術織物。初代龍村平藏の「創造と復元」の精神を受け継ぐ龍村育社長は、父の急逝によって五代龍村平藏も襲名することとなった。織物業界の売り上げがかつての10分の1といわれる中で、父から託された織物産業の立て直しに取り組む龍村社長。経営と作家性の両立をどう実現していくのか、織物の技を次世代に受け継ぐための挑戦について聞いた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆「マーケットイン」と「プロダクトアウト」の葛藤
─10年ほどは経営に注力しようと考えていたのに、四代平藏だった父・龍村清さんが亡くなり、五代平藏を襲名されました。どんな心境だったのでしょうか 2022年に父が亡くなり、2024年に五代平藏を襲名したのですが、非常に重みがありました。 社長になって5年で、表現と経営の両方をやらざるを得なくなったのです。 龍村平藏は、西陣織の中ではそこそこのブランドネームです。 好きなものを作れるという意味では喜びはありますが、自分が言えば何でもその通りに動いてしまう。 当然責任が伴います。 販路やPRも含め、最終的な判断を全て求められます。 初代平藏も、「芸術と経済の戦争」という言葉を残しています。 企業の作りたいものを作る「プロダクトアウト」か、売れるものを作る「マーケットイン」か。 非常に難しい部分です。 売れるものを作るとなると、「そこに作家性はあるのか」という問いが生まれてしまうのです。 ─長く続くものづくり企業ゆえに、変えることの難しさもあると思います。それでも「変えるべきだ」と思う部分はありますか 父が平藏だった頃から、口出しはしないけれど思っていることはありました。 帯は創業時からやっているので、「龍村美術織物の帯とはこういうものだ」という感覚が染み付いているんですね。 ステレオタイプで古臭い。 私よりずっと若いデザイナーでさえ、なんとなくそれを踏襲しています。 「なぜそんな色を使うのか」と思うようなデザインをもってくるので突き返すと、少し考えて、また似たような別のデザインをもってくる。 染み付いたものを変えるのは大変です。 けれど、もっと売り場や販売会に足を運び、お客さんが買っているところを見て感じて、研究したほうがいいでしょう。