「売れる物を追求したとき、作家性はあるのか」 京都の一流織物企業の挑戦、かわいいミッフィーへの「躍動と解放」とは
◆ミッフィーとのコラボ?意外な挑戦
─新機軸でいうと、人気キャラクター「ミッフィー」とのコラボ商品もありますね 「価格を下げず新しい層にアプローチしたい」という思いから生まれたものです。 30代の女性社員が「ミッフィーはどうか」とアイデアをくれたのに、恥ずかしながら私は、ミッフィーがそれほど人気だと知らなくて。 一人大反対しましたが、私以外は盛り上がっていたので「そんなに言うならやってみようか」と。 弊社のにおいがする吉祥柄などと組み合わせてみたところ、すごく売れました。 クオリティを保ち、織物業界を長続きさせるために、あえて金額は既存の商品と同じにしたのですが、若い人にも受け入れてもらえたのは大きかった。 弊社の商品を知ってもらうきっかけになり、また、他のキャラクタービジネスの人から声をかけてくださるなど、広がりも出てきました。 異業種と組むことで、双方が新しい顧客を開拓できる可能性を示せたのではないでしょうか。 ─ご自身のテーマとしては、「和の躍動、和の解放」を掲げておられますね 培ってきた技術に、美的センスを加えて躍動させたいという思いがあります。 既存の概念は大事にしつつ、一旦フラットにして組み直し、解放していく。 弊社の織物やデザインを使って新しい道を拓き、広い世界に発信していきたいのです。 海外では日本が注目されていることもあり、海外の展示会や見本市にも本格的に出ないかと、声を掛けていただいています。 市場の反応を見ながら、さまざまな分野とのコラボレーションも進めたいと考えています。
◆着物需要、V字回復しないからこそ
─着物を着る人が減っていますが、今後の事業展開をどのように考えておられるのでしょうか 京都は特にそうですが、温暖化が進み、年々着物に適さない気候になってきています。 和装がV字回復することは考えられず、今後はきっと、より上流階級の方々のたしなみになっていく。 その点では、弊社はさらに高価な商品を出せるようになります。 インテリアも、ラグジュアリー空間やホテルライクな生活を演出する流れはしばらく続き、商機はあるでしょう。 雑貨部門は課題ですが、流行に敏感な外部のデザイナーを入れたり、織物と革やメタルと融合させたり、「ザ・和雑貨」のイメージから脱却した商品もつくっていきます。 インバウンドのお客さんには、「体験」を売りにしたい。織機に座って織る体験などを提供できれば、高価な商品も、熱量がある中で買ってもらえるかもしれません。 先代のときには「見せない」方針で工場に人を入れなかったけれど、「見せる」方針に変えていきたいですね。 今後も、龍村美術織物の価値を次世代に引き継がなければなりません。 創造と復元によって、時代に即した商品や価値を提供し続けられるように新しい試みを続けます。 アートは一つの大事な要素ですが、全く毛色の違うことをやってみるのもいいかなと思っています。 (取材・記事=小坂綾子)
■プロフィール
株式会社 龍村美術織物 代表取締役社長 龍村 育 氏 1973年、兵庫県生まれ。1996年から2007年まで東京スポーツ新聞社で営業職として働き、父親が社長を務める龍村美術織物に入社。技術部、営業推進部などを経て、2012年に取締役。2016年に常務取締役となり、2019年に代表取締役社長に就任。2024年9月、五代龍村平藏を襲名した。