僕を捨てた父が認知症にーー孤独なゲーム芸人の壮絶人生と父への愛憎 もう一度家族になる #老いる社会 #ydocs
絶望と希望の狭間で「奇跡」は起きた
2022年1月、フジタは実家の2階で父との同居を始める。 父が買い物に行かなくて済むように宅配弁当を注文し、留守中の安否を確認するための見守りカメラも設置した。映像を確認して、父が夜中に何度もトイレに行こうとし、足元がふらつき、倒れて失禁していることを知る。 フジタは「大丈夫か?」と声を掛けるが、父はいつも「大丈夫」と一言。 長年の絶縁で父との接し方がわからないフジタと、息子に弱みは見せたくない父の、やっかいな親子関係がそこにあった。 内縁の妻と会わなくなって、認知症の症状は目に見えて進行した。心配したフジタは、要介護認定の申請をする。審査にやってきたケアマネージャーの前で、父は「何も困っていない元気な自分」をアピールするが、実際には、歩行も排泄も一人でするのは困難になっていた。 認定結果は、日常生活に全面的な介助が必要な「要介護2」。 それを機に、フジタは実家の清掃とリフォームを専門業者に依頼する。費用は全額フジタが負担した。これまで自分の所有物に指一本触れさせなかった父が、荷物の大半を処分することに同意した。 フジタも父も、何かをリセットしたい思いがあったのかもしれない。 同年4月から、父は週3回のデイサービスに通い始めた。最初は嫌がっていたが、通いだしてみると、まんざらでもない様子。大好きなカラオケを何曲も歌う姿は、楽しかった内縁の妻との日々を思い出しているかのようだった。デイサービスに通うようになってから、父の無断外出はめっきり減った。 デイサービスが始まり、親子が落ち着きを取り戻した頃、フジタの人生に大きな転機が訪れる。 14歳年下の「しずかさん(仮名・31)」との出会いだ。ふたりはマッチングアプリで知り合い、交際をスタートさせた。互いに初婚で、子どもができたらすぐに結婚したいと考えていた。そして交際から1カ月後、しずかさんの妊娠が判明する。フジタは、しずかさんに結婚を申し込んだ。 かつて父はフジタにこんなことを言っていた。 「お前にもし子どもができたら、俺は飛び上がって喜ぶ。そのままあの世に行ってもいい」 父はしずかさんの妊娠を心から祝福してくれた。 2023年11月22日、二人は結婚。2024年3月末に女の子が生まれる予定だ。 今度はフジタが親になる番である。準備のため、フジタにとって「人生の相棒」でもあるゲームコレクションの一部を売却し1000万円の資金を用意した。期待と不安で胸をふくらませながらも、幸せを噛み締めていた。