僕を捨てた父が認知症にーー孤独なゲーム芸人の壮絶人生と父への愛憎 もう一度家族になる #老いる社会 #ydocs
絶縁から和解…。しかし、父は「認知症」になった
再会したのは、それから30年以上たった2021年1月のこと。80歳を越えた父は、古い一戸建てにひとりで暮らしていた。 突然フジタを呼び出し「あの頃は悪かった」と謝罪した。そして「全財産はお前に譲る」と約束し、わざわざ遺言書を作らせた。 初めて聞く父の謝罪の言葉。しかしフジタの気持ちは晴れなかった。なぜなら、内縁の妻と父が今もなお関係を続けていたからだ。週末になると、内縁の妻とその孫に会いに出掛け、家族同然に食事を楽しんでいる。さらに月末には “小遣い”として内縁の妻に3万円を渡していた。 時が経っても、親子の溝は埋まらないままだった。 ところが、年も押し迫った12月、父に異変が起きる。「銀行に預けた金が何者かに盗まれている」と、父が警察に届けて騒ぎになった。 警察が防犯カメラを確認すると、一日に何度も銀行にやってきて金を下ろす父が映っていた。貯金を使い果たし、30万円の借金をつくっていた。事実を告げると、父は「記憶がない」というばかり。昔から金は人任せにせず、自分で管理しなければ気がすまない性分だった。借金をした話もフジタは聞いたことがない。 父は別人のように変わっていた。 家を訪ねると、室内は「ゴミ屋敷」と化し、悪臭が立ち込めていた。台所に、欲しいものを我慢できずに買って、そのまま腐らせた食材が放置されている。父の記憶力と判断力の低下は著しかった。しかし本人は「自分の頭はしっかりしている」と譲らない。 翌年3月、ようやく検査を受けると、父は「軽度の認知症」と診断された。しかしそのことが、親子の関係に変化をもたらすことになる。フジタがずっと抱いていた「ある思い」が呼び覚まされた。 子どもの頃の「寂しい」「逢いたい」という願望だった。 フジタは自分を捨てた父の面倒を見ることにする。年金の管理をし、金を渡すために小まめに会いにくるようにした。 やがてフジタは「もう一度、父と家族の関係を取り戻せるのではないか」と考えるようになり、「自分もいつか家族を持ち、父に孫の顔を見せよう」と夢見るようになる。 相変わらず、認知症の父の金遣いは荒く、渡してもすぐに使い切り、フジタに無心を繰り返した。何度同じことを言っても、すぐに忘れてしまう。忘れないよう張り紙をしても、効果はなかった。銀行はフジタが同伴しないと下ろせない。しかし父はそのことを忘れ、内縁の妻に金を渡そうと一人、銀行に出掛けた。 自分が言ったことはすぐに忘れるのに、内縁の妻に金を渡すことだけは忘れない父。 「内縁の妻がいるせいで、父との関係がうまくいかない…」。フジタの心は傷ついた。しかし、やがて内縁の妻は父に愛想をつかしたのか、自分から関係を終わらせていった。