「超一瞬」のレーザー光が照らすノーベル賞研究 物理学賞
「一瞬の光」で謎だった化学反応の仕組みが明らかに
フェムト秒分光法によって、それまでブラックボックスだった化学反応の仕組みが解明できるようになり、化学のあり方は大きく変わりました。化学をより本質的に理解し、より論理的に分子設計を行えるようになったのです。さらに、バイオ系の分野も大きな影響を受けました。生体分子やタンパク質の動きの解明が進んだおかげで、私たち生物そのものをより深く理解できるようになりました。医療に応用する道筋も見えてきました。 そして現在はフェムト秒レーザーを使って、さらに短い「アト秒」の光パルスの開発も進められています(1アト秒は0.001フェムト秒)。アト秒の光パルスが実現すれば、分子よりもさらに速い電子の動きが観測でき、究極的に根源的な化学の理解が可能になると考えられています。人類が長い歳月をかけてつくった「一瞬の光」、次はどんな未来を照らしてくれるのでしょうか。
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 太田努(おおた・つとむ) 神奈川県生まれ。専門は物理化学。分子や原子の気持ちを考えるのが好きで、原子の集合体「クラスター」の性質を研究した。特許事務所での仕事経験を経て、2019年4月から現職