考察『光る君へ』35話「お慕いしております!」中宮・彰子(見上愛)の心を動かした『源氏物語』「若紫」。一条帝(塩野瑛久)は道長(柄本佑)に「夜に藤壺にゆく」
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。「藤式部」と呼ばれるまひろ(後の紫式部/吉高由里子)の大人気連載小説『源氏物語』は第五帖「若紫」へ。35話「中宮の涙」では、境遇の似た「若紫」への共感が中宮・彰子(見上愛)の運命を開きます。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載37回(特別編2回を含む)です。
作者に直接聞く一条帝
寛弘4年(1007年)8月。道長(柄本佑)の御嶽詣の一行を伊周(三浦翔平)の命を受けた軍事貴族・平致頼(たいらのむねより/中村織央)らがつけ狙う。この道長暗殺計画については、歴史上は噂レベルの話とされている。 夏の修行と祈りの旅は谷を下り峠を越え、想像よりもハードそうだ。都ではまひろ(吉高由里子)が道長から贈られた檜扇を胸に、ひそかに無事の帰還を祈っている。 一条帝(塩野瑛久)はたびたび、まひろの局にお渡りになり『源氏物語』について下問されているようだ。今回は、 一条帝「白い夕顔の女は、なぜ死ななければならなかったのだ」 『源氏物語』第四帖「夕顔」。光源氏17歳の夏。当時の下町である五条の乳母の病気見舞いをした折に、光源氏は白い夕顔の花が咲いている家の女と出会った。このころの光源氏といえば、嫡妻・葵上の他にも通う女がいて、特に六条の邸宅に住まう8歳年上の貴婦人──六条御息所(みやすんどころ/親王、内親王の母の敬称)との仲は女性の身分の高さもあり周囲の密やかな噂となっていた。どこか気を遣う関係に疲れていたのか、光源氏はなんの気兼ねもなく交際できる夕顔の女にのめりこんだ。当然、夕顔以外の家には足が向かなくなってゆく。 初秋の頃。周りが騒がしい五条の夕顔の家よりも、静かにゆっくりできる場所で愛し合おうと、光源氏は六条の廃屋敷に女を連れ出す。 荒れた屋敷の様子に怯える夕顔を抱き寄せて夜を共にするが、深夜、ひとりの女が夕顔の枕元に現れ、彼女の体を引き起こそうとする夢を見た。目を覚ますと闇の中で夕顔は息絶えていた──。 帝がまひろに訊ねているのは、この夕顔の死因だ。現代では六条御息所の生霊が取り憑いたためという認識が一般的だが、第四帖では夕顔の枕元に「いとをかしげなる女いて(※とても美しい女が座っていて)」こうまであなたを愛している私に逢いに来ないのに、こんな平凡な女を愛おしんでいるなんて恨めしい……と光源氏に言うのみである。なので、この時点ではこれが六条御息所の生霊なのか、他の愛人のそれなのか、はっきりしないのだ。 まひろは「生霊の仕業」とだけ答え、生きている者の心持の苦しさが生霊を生み出すのだと述べる。そこから一条帝は、自分が苦しさを与えてしまっているであろう左大臣・道長の、御嶽詣をしてまで中宮・彰子(見上愛)の懐妊を祈る心持に思いを馳せることになった。 それにしても帝、作者に「これどういうこと?」と直接聞けるのか……いいなあ。いや、でもすぐ正解が出ちゃうのは作品を受け取る側としては、楽しくないかも。
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