ラグビー日本代表が世界3位の豪州に23ー32と大善戦も”笑わない男”が「全然いいゲームじゃない」と語った理由とは?
「小さなことをしっかりやらないと大きな成長はできない。ジャパンのトレーニングも強度が高くなっている。ジャパンは(テンポの速い)特殊なラグビーをする。それがなぜできるかと言えば、ハードな練習だよね、となる」 練習の成果は攻撃にも見られた。 スペースへパス、キックを自在に配するのはW杯日本大会時と同様。今回は、もともとタッチライン際にいることの多かったフランカーの選手が中央付近に立ったり、密集地帯でも果敢にオフロードパス(タックルされながら投げるパス)を試みたりと、変化も匂わせた。 落球などでいくつかのチャンスを逃しはしたが、アタック担当のトニー・ブラウンアシスタントコーチのイマジネーションを示すには十分だった。 3-14と11点差を追っていた前半26分には、好トライも生まれた。 自軍キックオフを敵陣22メートル線付近左で得ると、少しパスを乱しながらも左の狭い区画を中心にラックを作る。フォワードの選手が小さな群れをなしてのパス交換の際には、投げ手となったフッカーの坂手淳史が受け手のガンターから再びオフロードパスをもらい、前進。小技を効かせた。 5フェーズ目では左端の姫野がスペースを切り裂き、ゴールラインに近づく。そして10フェーズ目。スタンドオフの松田力也が、後方からの声を聞いて右大外へキックパスを放つ。最後は捕球したウイングのレメキ ロマノ ラヴァが追っ手を振り切り、フィニッシュする。 直後のゴール成功で10―14と迫ったこのシーンを、松田はこう振り返った。 「ショートサイド(狭い区画)にスペースがあり、そこを攻めることで相手のディフェンスが(片側に)寄り、そこへ(空いた右サイドから)いいコールがあった。あとは自分のスキルを信じ、コールを信じ、スコアに繋げられました」
日本代表は、らしさを出して「善戦」した。ただし、活動再開後の初勝利はお預けとなったのも事実だ。 だから左プロップの稲垣啓太は、「いいゲームができたわけ」を聞かれても手厳しい。 「まず、負けたので、全然いいゲームじゃないですけどね。選手全員が思っています。勝つために準備してきたので」 猛省するのは反則の多さだ。公式記録上、反則数はオーストラリア代表の「10」に対して日本代表は「14」。記者会見では、日本代表側が独自調査のもと「17」と振り返っている。 悔しさが伝わる。稲垣は続ける。 「本当にシンプルな問題なんですけど、シンプルな問題ゆえに負けている。ペナルティーへの意識を選手全員に刷り込まなければいけないです」 反則の多かった領域には、相手ボールのスクラムがあった。 試合最初の1本で「頭が当たっている」との理由から、アーリーヒット(合図より早く組む軽微な反則)と判定された。以後、日本代表はスクラムで相手と間合いを取らねばと意識する。 もっとも本来、日本代表は相手と接近して組みたかった。理想のパックを作れないなか、塊をわざと崩すコラプシングの反則を取られた。 後半途中から修正でき、逆に相手の反則を誘えたことも踏まえ、稲垣はこう証言する。 「最初、思った以上に(相手との)距離があった。最初のヒット(ぶつかり合い)がいい感じでも、距離があった分、(日本代表側の)足が伸びきってしまい、(力が入らず)相手にプレッシャーで戻されてしまうことが続いていた。(途中から)『最初の段階で全体的に足を1歩、前に出そう』と修正しました。それをすることで、自分たちのヒットで勝った状態から戻されることなくプレッシャーをかけ続けられた。(学んだことは)対応力。正直、ここまで距離が空くとは思っていなくて…。もう少し早く対応しなくてはいけなかったです」 笛に泣いたのは、ボールが動く間も同じだ。 後半8分からの10分間は、レメキの一時退場により数的不利を強いられる。13―22だったスコアが13―27になったこともあり、一時退場を嫌うジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチはかなり残念がった。 それ以上に惜しまれるのは、4点差を追う後半36分のエラーだ。 自陣深い位置で徳永のジャッカルにより攻守逆転。右から左へ一気に展開する。 しかし、ランナーとなったアウトサイドセンターのラファエレ ティモシーと、サポート役だったウイングのシオサイア・フィフィタの呼吸が合わない。孤立したラファエレが相手に囲まれ、ノット・リリース・ザ・ボール(倒れたまま球を手放さない反則)と判定される。だめを押されたのは、その直後だった。