パナソニック福岡堅樹が日本一&“有終トライ”…28歳でラグビー引退し医師の道へ「やり切った。何ひとつ後悔はない」
ノーサイド、パナソニックの優勝、そして自身のラグビー人生の終焉を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間に、秩父宮ラグビー場のバックスタンド前にポジションを取っていた福岡堅樹(28)は満開の笑顔を弾けさせ、晴れわたった青空へ両拳を突き上げた。 しかし、メインスタンド前にできあがった仲間たちの歓喜の輪に、なぜか加わろうとしない。サントリーに最大で16点差をつけながら、残り1分で31-26と5点差まで肉迫され、さらに猛攻を浴びたなかで手にした勝利。聖地のフィールドに立ち尽くしたまま万感の思いに浸っていたと、記憶と記録に残る韋駄天ウィングは明かした。 「最後はひとつ間違えば、逆転されていたかもしれない展開で『あぁ、よかった』という思いが込み上げてきたのと、あとは『これでもうラグビーをすることはないんだな』と、じわじわと感じていた部分がありました」 パナソニックがサントリーを振り切り5年ぶり、前身の三洋電機時代を含めて5度目の優勝を果たした、23日の日本選手権兼トップリーグ・プレーオフトーナメント決勝。シーズンを締めくくる大一番を最後に、順天堂大学医学部医学科へ入学したばかりの大学生として、医師への道を本格的に歩み始める福岡が眩い輝きを放ったのは、13-0で迎えた前半30分だった。 実に10度のフェーズを重ねた連続攻撃で、敵陣の22メートルラインの内側まで迫った直後だった。左中間でパスを受けたスタンドオフ松田力也は、大外にいた左ウィング福岡と目が合った瞬間に「パスをわたせばトライを取ってくれる」と閃いた。 あうんの呼吸は2人の味方を飛ばしたパスとなって具現化される。ボールを持って一気に加速した福岡は、左タッチラインの外へ押し出そうと猛然とタックルを浴びせてきた最初の刺客、右ウィング中鶴隆彰をまずはハンドオフでかわした。 このとき、福岡の左足とタッチラインの距離はわずか数センチだった。ギリギリでこらえながらさらに前へ進む福岡へ、次の刺客が襲いかかる。現役のニュージーランド代表スタンドオフ、ボーデン・バレットのタックルはしかし、わずかに届かなかった。 楕円のボールを抱えた左手を必死に伸ばし、最後は宙を舞いながらコーナーポスト際のインゴールへ叩きつける。勢い余って後ろ向きに2度も転倒し、ビデオ判定のTMOも入った現役最後のトライを、福岡は最も得意とする形だと振り返った。 「外のスペースを有効に使える状態でスピードに乗れました。相手は来ましたけど、あれは自分がトライを取りきれる形だったので、いつも通り自分らしく走り切りました」 4トライを挙げて日本代表のベスト8進出に大きく貢献した、2019年のワールドカップ日本大会を最後に15人制代表から引退。東京五輪をもって7人制代表に、今シーズンのトップリーグでラグビーそのものにも別れを告げる人生を選んだ。