帰還開始から約5年の福島・浪江町で進む「地域の足」整備 オンデマンド交通の実証実験も #知り続ける
東京電力福島第一原子力発電所の事故にともなう避難指示が解除されてから、3月末で丸5年を迎える福島・浪江町。地域の暮らしや経済を支える公共交通の整備が進む中、昨年11月から今年2月にかけてはオンデマンド交通の実証実験「なみえスマートモビリティ」も行われました。高齢化が一層進むなど、町は震災前とは少し異なる姿に変わりつつあり、それにともない新たな移動ニーズも発生。誰もが暮らしやすいまちづくりを支えるべく、公共交通網のさらなる進化が求められています。 【図解】東日本大震災 福島県の復興課題と現状
路線バスとタクシーの中間
オンデマンド交通とは、予約に応じて配車する交通サービスです。デマンド交通と呼ばれることもあります。予約配車できる、という点ではタクシーと似ており、乗合輸送を行うという点では路線バスに似ているという、いわば路線バスとタクシーの中間のような存在と言えます。近年、路線バス会社の約7割が赤字経営に陥る中、オンデマンド交通は路線バスよりも高効率で採算性の高いサービスが実現できるのではないかと期待されています。 「実証実験の目的は、地域の移動の自由を守ることにあります。生活やビジネス、観光など、人々が何らかの活動をする際には必ず移動が発生しますので、人体をめぐる血流のように移動の自由は不可欠です」と語るのは、日産自動車総合研究所モビリティ・サービス研究所主管研究員の宮下直樹さん(52)です。
予約アプリは簡単予約の操作性を追求
今回の実証実験は日産自動車が実施しました。2021年11月1日から同年12月18日までは浪江町の中心部で行い、2022年1月7日から2月4日は避難指示が解除されたエリアの全域に拡大しました。 配車予約は専用のスマートフォンアプリか、画面を見ながら予約できる機器を備えた「デジタル停留所」で行います。アプリは、町内の高齢者約10人から意見を聞いて、スマホに慣れていない高齢者にも簡単に予約できるような操作性を追求しました。また、ユーザー登録を行えば町民に限らず誰でも利用可能にしました。 町の中心部には、JR浪江駅など主要拠点7か所に「デジタル停留所」を設置した他、予約画面にのみ表示して道路にバス停標識を置かない「バーチャル停留所」を約120か所設置。これにより、中心部においてはどこでも徒歩1分程度で停留所に行けるようにしたそうです。それ以外の区域には、各地区の代表的な場所やユーザー登録者の自宅付近に「バーチャル停留所」を設置。運行区域全体で、停留所の数は約190か所となりました。