帰還開始から約5年の福島・浪江町で進む「地域の足」整備 オンデマンド交通の実証実験も #知り続ける
町はこのほか、2018年4月に二本松市および南相馬市の復興公営住宅と町内を結ぶ生活支援バスの運行を開始。民間企業も、2020年3月にはJR東日本が常磐線を全線開通したほか、2021年4月からは新常磐交通が町内と双葉町、大熊町、富岡町を結ぶ路線バスの運行を開始するなど、着々と公共交通網の整備が行われてきました。 まちづくりが進む一方、避難指示解除から4年半後の2021年10月1日時点で、町内に住む人の数は1727人。震災前の1割未満にとどまります。このうち約3割は震災後に移住した新たな町民であり、元の住民の帰還はあまり進んでいないのが現状です。 帰還した町民については、震災前よりも高齢者のみの世帯の割合が増加。中には家族全員が運転免許を返納して、もはやデマンド交通などの公共交通がなければ移動もままならない世帯もあるそうです。町では、今後もこうした高齢世帯が増えると予想しています。
産業面では、町内に4つの産業団地の整備が進みつつあり、帰還して事業を再開する企業も含めて雇用の創出が進むと町では見ています。 町内の職場への就職にともない町への移住を考える人の中には、自動車の運転免許を持たない人もいると予想されるため、町は自家用車がなくても生活できるまちづくりを目指しています。 町外からビジネスのために訪れる人や、震災遺構の請戸小学校を訪れるなど観光目的で町にくる人も今後は増えると見込まれます。ところが、現在運行中のデマンド交通を利用できるのは町に住民登録している人のみ。自動車を使わずに来町した人は、移動手段が限られるのが現状です。
「十分生活していけるよね」と言ってもらえるような町にしていきたい
このように、まちづくりが進むにつれて発生する移動ニーズに応えるために、町はオンデマンド交通導入の検討を含めて公共交通網のさらなる充実を図る方針です。 震災以来、今日にいたるまで町役場の職員として町の復興を見続けてきた志賀さん。「毎年、毎年復興が著しく進み、コンビニや居酒屋、スーパーも再開して当たり前の町の姿に近づいてきました。町に住む町民は約1700人ですが、産業団地で雇用が生まれるとまだまだ増えるでしょう」 町の住民意向調査では、町外に避難した町民の中で町に戻らないと決めている人の割合が増えている、というシビアな結果も出ています。 志賀さんも「震災前と同じ程度の人口に戻るのは難しいかもしれません」と認めつつも、「町外から訪れた人に『なんかこういうところに住んでみたら面白そうだな』とか、『十分生活していけるよね』って言ってもらえるような、そういう町にしていきたい」と、まちづくりへの希望を語ってくれました。 (取材・文:具志堅浩二)