大谷翔平は総額268億円の巨大契約でエ軍残留か、それとも電撃トレードか…マドン監督解任の裏事情から透けて見える“今後”
「キャッチ22」という本がある。ジョセフ・ヘラーが1961年に発表した第2次世界大戦を舞台とした物語で、戦争の舞台裏をシニカルに描いた名作だ。 “キャッチ”というのは、「裏」、「罠」といった意味のスラング。“22”は、「狂気に陥ったものは、除隊を願い出ることができる。しかし、自身の狂気を認識できるうちは、狂気に陥ったと認定されない」――という理不尽な軍規第22項からきており、合わせると“軍規第22項に隠された矛盾”と解釈できる。 今では、一種のパラドックスを端的に表す言葉として知られるが、エンゼルスは、開幕前からいくつかの「キャッチ22」を抱えており、その一つが12連敗していた7日(日本時間8日)、ジョー・マドン監督の電撃解任、という形で表に現れた。 どういうことか? マドン監督にとって今年は、3年契約の最終年だった。ワールドシリーズに出場した場合は、自動的に来季までの契約が延長される。それ以外は、チームに契約を1年延長するかどうかの、オプション(選択権)があった。LAタイムズ紙のマイク・ディジオバンナ記者によると、「マドン監督は昨季終了後から、複数年の契約延長を求めたが、球団はその交渉のテーブルにつこうとせず、オプションの行使にも消極的だった」とのこと。マドン監督の年俸がリーグでもっとも高い 、3年総額1200万ドル(約16億円))ということもあるが、マドン監督が就任した翌年にゼネラルマネージャー(GM)となったペリー・ミナシアンにしてみれば、自分のやりたい野球を体現してくれる監督を、自分で選びたい。 当然ともいえるが、「マドンの存在は、その障害だった」とディジオバンナ記者は振り返る。 マドン監督は68歳。ミナシアンGM は42歳。年齢も違えば、これまでの実績も違う。 新人GM のミナシアンにしてみれば、マドン監督に意見するなど、容易ではなかった。方向性の違いは一部で明らかとなり、データの活用を巡って両者に溝が生まれていたことは、解任後にマドン監督が「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者に仄めかした。 また、ミナシアンGMは昨年のオフ、マドン監督が連れてきたブライアン・バターフィールド、ブルース・ハインズ両コーチとの契約延長を見送った。代わって、今回監督代行となったフィル・ネビンとレイ・モンゴメリーをそれぞれ三塁コーチ、ベンチコーチに採用。その時点で、両者の間に微妙な空気が流れた。 いずれにしても、今季もプレーオフを逃せば、そのことを理想的な口実として、ミナシアンGMは新監督招聘に動くつもりだった。ところが、蓋を開けてみれば、エンゼルスは開幕から好調。マドン監督にとってみれば契約延長に向け、追い風が吹いた。ミナシアンGMにとってそれは、自分が描いた来季の構想が泡と消え、パワーバランスがさらにマドン監督に傾くことを意味するだけに、もどかしい状況でもあった。 そんなときに期せずして始まった5月末からの大型連敗は、千載一遇のチャンスーーミナシアンGMの目にそう映ったとしても不思議はない。 しかし、あの流れであれば、オフェンスの低迷を理由とし、ジェレミー・リード打撃コーチを解任するのが妥当なところ。全責任をマドンに負わせたことには、驚きの声もあった。 もちろん、チームの負けを願うGMなどさすがにいない。しかし、勝ち続ければ、マドン監督の寿命が伸び、再びコーチの人事権も奪われる。ミナシアンGMには、負けが重なるごとに追い風が吹いた。 エンゼルスのキャッチ22は、それだけではない。 前述したように、適度に低迷してくれれば、ミナシアンGMはいよいよ実権を握れる。それは半ば決着したが、負けが込めば、大谷翔平を失う可能性が高まり、諸刃の剣だった。