ヤクルト”ライアン”小川の史上82人目ノーノー達成の裏に隠された「小さな奇跡」と「細心企業努力」
ヤクルトの小川泰弘(30)が15日、横浜スタジアムで行われた横浜DeNA戦でプロ8年目にして初のノーヒットノーランを達成した。2019年9月14日に中日の大野雄大が阪神戦で記録して以来、史上82人目、93回目の快挙。ヤクルトでは2006年5月25日の楽天戦でガトームソンが達成して以来、14年ぶり。小川はストレートとフォークの威力が最後まで衰えず打者32人に対して135球、10奪三振、3四球という内容だった。チームの連敗を5で止め、ハーラーダービーの2位につける5勝目を大記録でマークした。
「強気でストレートを」
フルカウントからの6球目だった。 大記録にまであと一人。代打・乙坂のバットにフォークで空を切らせると、小川は、マウンド上でクルっと回って何やら雄叫びを上げた。グラブをポンポンポンと3度叩き、ここまで無表情を貫いてきたエースが満面の笑みで両手を上げてガッツポーズ。駆けつけた“女房”の西田と抱き合い、チームメイトのウォーターシャワーの祝福を受けた。 「前回、悔しいピッチングをしていたので、何とかやり返したいという気持ちでしたし、キャッチャーの西田が強気のリードをしてくれたので、自分も強気でストレートを投げ込めました。野手のみなさんも点をたくさん取ってくれたので、乗っていくことができました」 9-0のワンサイドゲームの中に咲かせた大輪だった。 終わってみればのピンチが2度あった。 2回二死から大和を平凡なライトフライに打ち取ったが、この時間帯のハマスタは、打球の角度によっては照明と重なり見えなくなる。このスタジアムに慣れていないプロ2年目のライト、浜田は、照明がモロに目に入ったのか、打球を見失い、しゃがみこんでしまった。グラブに当てながらの落球。公式記録員は、これをエラーと判定したが、もしグラブに当てることができず、打球をスルーしていれば、ヒットと判定されても不思議ではなかった。 快挙の裏にあった小さな奇跡である。 ノーノーまであとアウト6個に迫っていた8回にもドラマがあった。先頭の倉本にフルカウントから四球を与え、続く中井は、併殺におあつらえ向きのショート正面のゴロ。だが、二塁のベースカバーに入った広岡が、西浦からの送球を胸付近で受けながら落球するという”とんでもエラー”を犯したのだ。 エラーが許されないパーフェクトゲームではなかったが、刻々と進むノーヒットノーランという大記録にバックも緊張していたのだろう。 だが、マウンド付近に来て帽子をとって謝罪した広岡の胸を「気にするな」とばかりにポンポンと2度グラブで叩いた小川は動じることはなかった。 「気持ちで前に出る」 それが、この日のマウンドのテーマだった。