なぜ川崎Fは記録尽くしの独走Vを果たせたのか?
チーム最多の13ゴールをあげている、エースストライカーの小林がこう語ったことがある。再開後の過密日程と真夏の消耗戦の影響で、主力選手が大けがを負うケースが各チームで相次いだ。しかし、フロンターレは例外と言っていいほど、長期離脱者をほとんど出さずにゴールまで駆け抜けた。 クラブが公式に発表した故障者は、序盤戦で左ひざの内側側副じん帯を損傷した長谷川と、10月中旬に左ハムストリングに肉離れを起こした小林の2人。後者のプレー時間が1125分にとどまっている理由でもあるが、モチベーションを「終盤戦の一番美味しいところを、自分が全部もっていく」と高めた小林は、最長で全治8週間の診断よりもはるかに早く復帰してゴールも決めた。 2017、2018シーズンとJ1を連覇し、昨シーズンにはYBCルヴァンカップも制したハイレベルな陣容に、限られた先発ポジションを競う意欲がさらに高まった。先発メンバーを目まぐるしく変える鬼木監督のさい配にもたらされる別の意味での変化に、昨秋に負った左ひざの大けがを乗り越えて8月下旬に復帰した、フロンターレひと筋18年目の中村は声を弾ませたことがある。 「自分を含めたすべての選手が、試合に出たときには勝ちたい、という高いモチベーションを持っている。そして、上手くプレーできなければ、次の試合ではベンチ入りメンバーから外れることもある。それほどいい選手がそろっている。チームメイトですけどお互いに争う、といった関係では、僕がこれまでプレーしてきたシーズンのなかでおそらく一番レベルが高いんじゃないかと思っています」 公式には発表されていないが、前節までの2試合でベンチから外れていた家長は左足首を捻挫していた。しかし、ホームに駆けつけるファン・サポーターとともに、至福の喜びを共有できるまたとない舞台となるガンバ戦を前にして、指揮官は「試合に出てほしい」と家長に告げている。 「昨日から(左足首に)注射を打っている状態で、彼の男気といったものに期待して、それに応えてくれた。本当に背中で見せる、結果で見せる選手だとあらためて敬意を払っています」 ボールをキープして味方のために時間を作るテクニックを含めて、鬼木監督は3トップのなかでも家長を最も重用してきた。痛みが残っているのを承知の上で出場を要請した鬼木監督は、ハットトリック達成に思わず声を弾ませた。ガンバの下部組織で育ち、ガンバでプロの第一歩を踏み出した34歳の家長も、指揮官から寄せられる信頼の厚さに心を動かされたと明かしている。 「選手としては嬉しいことですし、期待に応えたい、という思いはありました」 微に入り細をうがって選手たちの一挙手一投足をチェックし、対戦相手の特徴やゲームプランも踏まえながら、カメレオンのように先発メンバーを変えてきた戦法に、ガンバ戦限定で“浪花節”にも通じる熱さを加えて優勝を勝ち取った。J1が18チーム体制になり、年間34試合を戦う2005シーズン以降における史上最速だけでなく、勝ち点75、勝利数24も史上最多をそれぞれ更新した。