川崎Fの中村憲剛が決めた不惑バースデー弾の舞台裏
自らの誕生日に公式戦が行われるのがプロになって初めてなら、アシストよりもゴールを貪欲に求め続けたのも初めてだった。実際にMF中村憲剛は川崎フロンターレで最多タイとなる5本のシュートを放ち、後半29分に左足から放った最後の一発でFC東京のゴールに風穴を開けた。 ホームの等々力陸上競技場で10月31日に行われた明治安田生命J1リーグ第25節。多摩川を挟んでホームタウンを構える地理的な関係から、2007シーズンより「多摩川クラシコ」と命名された宿命の対決に決着をつけたのは、この日に40歳になったフロンターレの大黒柱だった。 「バースデーゴールなんて無理だよ、と周りには言っていましたけど、めちゃめちゃ狙っていました」 1-1の均衡を破る今シーズン2ゴール目を守り切り、前節で塗り替えた同一シーズンの連勝記録を12に更新。10月7日のYBCルヴァンカップ準決勝で完敗を喫し、連覇の夢を絶たれたFC東京にリーグ戦制覇の可能性を消滅させ、リベンジを果たした試合後のフラッシュインタビューで胸中に秘めていた思いを明かした憲剛は、照れくさそうな表情を浮かべながらこんな言葉も紡いだ。 「ちょっと出来すぎですね、はい」 ドラマのような瞬間は、憲剛のパスが起点になった。右サイドのFW家長昭博から受けたボールを、左サイドに開いていたFW三笘薫に素早く預ける。左サイドから果敢に1対1を仕掛けて、縦へ抜き去る十八番のプレーを発動させた筑波大卒のルーキーの姿に、憲剛の脳裏に閃くものがあった。 「薫の侵入角度がどんどん深くなっていくにつれて、自分が点を取れるかもしれない、と」 鋭い切り返しからマークについたDF中村拓海を抜き去った三笘は、ペナルティーエリア内の左側をゴールライン付近までえぐっていく。GK波多野豪はポスト際に位置取り、センターバックの森重真人は突進してくる三笘と対峙しようとポジションを移す。必然的に森重の後方、ゲームキャプテンを担うもう一人のセンターバック渡辺剛との間にスペースが生まれる。憲剛はそこを突いた。