希望だけをもたせる技術は提供できない──広がる卵子凍結、その可能性と課題 #卵子凍結のゆくえ
そうした観点から考えたとき、企業の福利厚生に卵子凍結の支援が取り入れられることには、一つの希望が見いだせるかもしれない。というのも、前述のPR会社のサニーサイドアップでは、卵子凍結の費用補助を福利厚生に入れたことで、卵子凍結や不妊治療について社内でオープンに語られる空気ができたと見られるからだ。社長室の谷村さんは言う。 「会社として卵子凍結を勧めるというものではなく、利用者もこの6年間で計2、3人と多くはありません。ですが、この制度をきっかけに、女性の身体に関する社内のセミナーなどを頻繁に開くようになりました。それが社内の意識をいい方向に変えているようにも感じています」 入社2年目の20代の女性社員によれば、同期の社員同士で卵子凍結や不妊治療について話すこともよくあるという。他社に勤める友人と比べても、社内にそうした話をする土壌ができていると感じていると話した。また、同じく30代の男性社員も、社内にそうした雰囲気ができていることの意義をこう語った。 「会社でこのような話題が普通に出るようになって、女性の身体のことは女性だけの問題ではなく、男性も含めて取り組むべき問題だと感じるようになりました。知ると知らないとでは大きな違いです。知る環境を持つことは大切だなと実感しています」 繰り返しになるが、卵子凍結は、技術や制度の面でいまも未熟だ。しかし必要とする人もいる。どうすべきかに正解はない。 それゆえに、広く語られ、知識が共有されることが重要である。今後議論が活発化することを期待したい。 --- 近藤雄生(こんどう・ゆうき) 1976年東京都生まれ。大学院修了後の2003年、ライターとしての道を模索しつつ妻とともに日本を発つ。オーストラリア、東南アジア、中国、ユーラシア大陸で、5年以上にわたって、旅・定住を繰り返しながら月刊誌や週刊誌にルポルタージュなどを寄稿。2008年に帰国。著書に『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、『吃音』(新潮文庫)、『オオカミと野生のイヌ』(エクスナレッジ、共著)など。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。