「あなたという人がいないのに、時は過ぎる」安倍元首相国葬(全文)※追悼の辞のみ
世界のどの地域とも良好な関係を構築
「二つの海の交わり」を説いたあなたは、さらに考えを深め、「自由で開かれたインド太平洋」という、たくさんの国、多くの人々を包摂する枠組みへと育てました。米国との関係を格段に強化し、日米の抑止力を飛躍的に強くした上に、年来の主張に基づき、インド、オーストラリアとの連携を充実させて、「クアッド」の枠組みをつくりました。 あなたの重層的な外交は、世界のどの地域とも良好な関係を築かれた。欧州との経済連携協定と戦略的パートナーシップ協定の締結、そしてアジア地域、ユーラシア地域、中東、アフリカ、中南米地域と、これまでにない果断で率直な外交を展開され、次々と深い協力関係を築かれていった。 平和安全法制、特定秘密保護法など、苦しい経過を乗り切って、あなたは成就させ、ために、わが国の安全はよりいっそう保てるようになりました。日本と地域、さらには世界の安全を支える頼もしい屋根を架け、自由、民主主義、人権と法の支配を重んじる開かれた国際秩序の維持・増進に、世界の誰より力を尽くしたのは安倍晋三、その人でした。私は外務大臣として、その同じ時代を生きてきた盟友として、あなたの内閣に加わり、日本外交の地平を広げる仕事に、一意専心、取り組むことができたことを一生の誇りとすることでしょう。 国内にあっては、あなたは若い人々を、とりわけ女性を励ましました。子育ての負担を少しでもやわらげることで、希望出生率をかなえようと努力をされた。消費税を上げる代わりに増える歳入を保育費や学費を下げる道に用いる決断をしたのは、その道の先に自信を取り戻した日本の若者が、新しい何かを生み出して日本を前に進めてくれるに違いないと信じていたからです。
包摂的な日本を、地域を、世界をつくることを誓う
あなたはわが国憲政史上、最も長く政権にありましたが、歴史はその長さよりも、達成した事績によってあなたを記憶することでしょう。 勇とは正しきことをなすことなり、という新渡戸稲造の言葉をあなたは一度、防衛大学校の卒業式で使っています。Courage is doing what is right. 安倍さん、あなたこそ勇気の人でありました。いちずな誠の人。厚い情けの人であって、友人をこよなく大切にし、昭恵夫人を深く愛した、良き夫でもあったあなたのことを、私はいつまでも懐かしく思い出すだろうと思います。 そして日本の、世界中の多くの人たちが安倍総理のころ、安倍総理の時代などとあなたを懐かしむに違いありません。あなたが敷いた土台の上に持続的で全ての人が輝く、包摂的な日本を、地域を、世界をつくっていくことを誓いとしてここに述べ、追悼の辞といたします。 安倍さん、安倍総理、お疲れさまでした。そして本当にありがとうございました。どうか安らかにお休みください。令和4年9月27日、日本国内閣総理大臣、岸田文雄。