日銀・黒田総裁会見10月28日(全文2)矢野次官の寄稿へのコメントは差し控えたいが
円安は現在でもプラスと言えるのか
日本経済新聞:日本経済新聞の後藤と申します。よろしくお願いします。円安の日本経済への波及についてちょっと確認させていただきたいんですが、波及経路が変化していると総裁はおっしゃっておりましたけれども、かつては円安は日本経済全体としてはプラスの面が大きいとおっしゃっていたかと存じます。トータルで現在でもプラスと言えるのかどうか。仮に言えるとした場合でも、そのプラスの程度は弱まってきているのかどうか。そのバランスについて確認させてください。 あと、すみません、もう1点ですけれども、アメリカに比べてインフレが鈍い理由について先ほど需要が弱い、それから労働供給に余裕がある、あと、デフレマインド、この3つを指摘されていたかと思います。ただ、この3つ、総裁が就任された当初に2%引き上げていく上での重要な要素といいますか、需給ギャップと期待インフレそのものでもあるとも言えるかと思います。総裁は就任されてから8年半ほど強力な金融緩和を続けてらっしゃいますけれども、需給ギャップも期待インフレも大きく動いていないということからすると、2%の物価目標の達成は実現が難しいのではないか、あるいは実現に向けての手段を日銀は持ち合わせていないのではないかと、そういうふうに思えてしまう面もあるんですけども、就任当初のご説明も踏まえて、この点に関しての今の総裁のお考えの整理をお聞かせください。お願いいたします。
総合的に見てプラスなのは確実
黒田:マイナス、プラスマイナスうんぬんっていうのは先ほど申し上げたように、その時々の内外の経済・物価情勢によって変化しうるわけですが、今の時点で、今、進んだ若干の円安の話ですけれども、これは総合的に見てプラスであるということは確実だと思います。それは輸出に対する影響にせよ、海外子会社の収益の増加などの影響にせよ、いずれにせよプラスであって、輸入コストの上昇によるマイナスの影響をかなり上回ってると思いますから。それは円安がいつでもそうだというわけじゃなくて、今の経済・物価情勢の中で今程度の円安についてどうかといえば、間違いなくプラスであるということだと思います。円安が常にプラスだとか円高が常にマイナスとかいうことは言えないので、その時々の経済・物価情勢と、そのときの名目為替レートがどのように合致しているかということによるんだというふうに思います。 それから物価の問題につきましては、理論的にはどこの国でも需給ギャップと中長期的な物価上昇期待、インフレ期待と、この2つが決定的な影響を及ぼすということは知られているわけですし、それは変わらないと思うんですけれども、具体的にそれがどのように作用しているかっていうふうに見たときに、今の時点で言うと先ほど申したように、1つは需要の回復がやや欧米よりも遅れているということで、需給ギャップはまだ、縮んできてはいますけどもまだプラスになってませんですね。 それから足元、今回のコロナの、これは普通の不況と非常に違うのは、あるいは自然災害と違うのは、設備も労働力もそのまま残っているわけですけども、人々は感染症対策ということで外出や外食を抑制せざるを得ないということで消費が、特に対面的な消費が大きく落ち込むということが経済全体にマイナスになったわけですけども、その場合に欧米と違った日本企業の対応が、日本企業は雇用をほとんど維持したと。ご承知のように失業率は2~3%ぐらいで変わっていないわけですけれども、欧米の場合は昨年、GDPが大きく落ち込んだときに失業率が大きく上がっているわけですね。だからそこは今回の、非常に特殊な例ではあるんですけれども、需給ギャップとの関係で、そういう現象が日本では起こっているということだと思います。