進む円安、日銀総裁は決定会合後にどう語るか?
日銀の金融政策決定会合が27日から行われ、28日には会合後に黒田東彦(はるひこ)総裁が記者会見します。現下の円安傾向についてどのような見解を示すのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】市場で話題 日本株「金曜底」の法則とは?
「黒田ライン」に迫る為替水準
今週の日銀金融政策決定会合(結果発表は28日)では、直近の円安に対する黒田総裁の見解が焦点になりそうです。円安と資源価格上昇が同時進行し、輸入物価の上昇圧力が高まっていることから、市場関係者は日銀が円安けん制に動く可能性を意識しています。ドル円レートは10月に入って約3年ぶりの円安水準となる114円を超えて円安が進む場面がありました。またWTI原油価格は1バレル80ドルを超えて推移しています(前年の同時期は40ドル台前半で推移)。 直近の為替水準は、実質実効為替レートという尺度でみると「黒田ライン」と呼ばれる水準に迫っています。実質実効為替レートとは対ドルのほかユーロ、英ポンドなどの主要通貨に対する相対的な値動きを、各国との貿易量、賃金・物価水準の相対的な差などをもとに加重平均して求めた尺度で「円の総合的実力」を示すものです。黒田ラインとは、2015年6月10日にUSD/JPYが125円近くまで上昇し、実質実効為替レートについては変動相場制移行後の最低水準付近で推移していた局面で、黒田総裁が「実質実効為替レートがここまで来ているということは、ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れることはなかなかありそうにない」と発言したことから、そう呼ばれています。 当時この発言は「黒田総裁が円安をけん制か」と大きく扱われました。黒田総裁はその翌週に開催された金融政策決定会合後の記者会見で、円安をけん制する意図はなかったと補足しましたが、奇しくもその発言を起点に為替が円高方向へと推移した経緯があります。
円安の効果は弱くなっている?
その点、今回の局面で黒田総裁は為替について以下のような見解を示しています(9月9日、日経新聞社とのインタビュー)。「円安が経済にどういう影響を与えるか、チャネル(波及経路)が少し変質しているのは事実だ。日本企業の海外生産が増え、かつてのように円安が輸出の数量を増して、成長率を押し上げるという効果は弱くなっているかもしれない」というものです。 端的に言えば、円安が企業収益に働きかけるメリットがかつてに比べ小さくなっているとの見解です。これは2013~15年の円安局面で、日本の輸出(金額ではなく数量ベース)がシェア拡大を伴って増加しなかったことを踏まえての発言と考えられます。 2012年までの円高局面では、日本企業は円高によって競争力が失われる輸出財の生産部門を切り離していたため、期待されていたほどに輸出は増加せず、その頃から円安を歓迎する論調は下火になりました。もっとも、インタビューでは「日本経済全体に与える円安の効果がなくなってしまったとか、あるいは円高の方が良いとか、そういうことはない」とも発言しており、根底に円高に対する恐怖があることが透けて見えます。