英トラス政権の大型減税が「トリプル安」誘発…ここから学べることは何か?
日銀が利上げしても円安は止まらない?
では、仮に日銀が利上げを実施したとします。もしそれによって景気の停滞や経済の混乱につながるとの見方が生じてしまえば、円安が止まるとは限りません。筆者は黒田総裁の任期中に金融引き締めが実施される可能性は低いとみていますが、もしそうなった場合は安易な円高予想は危険でしょう。そもそも日銀の利上げが金利差縮小に寄与するのはせいぜい0.50%程度ですから、米国の利上げ幅に対して極めて小幅です(米国は既に3%の利上げを実施、年末までに追加で1.25%の利上げが見込まれています)。その金融引き締めによって住宅ローン金利が上昇するなどして個人消費が停滞し、日本経済が冷え込むとの見方が生じれば、円高が進むとは考えにくいです。 なお現在の日本では為替対策をめぐって、日銀と政府の方向感が食い違っているとの指摘が多くあります。しかしながら、それは「円安抑制」を最重要課題とした場合の議論であり、「日本経済の安定成長」を対象にして考えれば、さほど違和感はありません。日銀は「急速な円安の悪影響を認めつつも、それ以上に金融緩和で日本の経済活動を支えることが重要」としており、経済活動を鈍化させ得る金融引き締めに距離を置いています。では、金融緩和の結果として生じる円安に対してどう対処するのかという議論になり、そこで政府(財務省)の為替介入が登場するというのは自然な流れでしょう。もちろん金融緩和の景気浮揚効果と為替介入による円安抑制効果がどれほどあるかは別問題ですが、よく言えば、理想的なポリシーミックスに思えます。
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