ジャクソンホールで示したFRB利上げ継続への決意 年明けはタカ派的なシナリオも?
パウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長がジャクソンホール(米ワイオミング州)で講演を行った後、日米株価は大きく下落しました。一時は年明けに利下げが始まるとの観測もありましたが、今後の利上げペースはどうなるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【画像】円安阻止へ日銀は利上げするべきなのか?
利上げ継続への強い決意
金融市場関係者が注目していたジャクソンホール・シンポジウムにおいて、パウエルFRB議長は「インフレを低下させるために、トレンドを下回る成長が一定期間持続する必要がある公算が大きい。労働市況も軟化する可能性が非常に高い。金利上昇や成長鈍化、労働市場の軟化はインフレを低下させるが、家計や企業に痛みをもたらすだろう」としてインフレ退治が最優先課題であるという認識を改めて示しました。 端的に言えば「景気が減速・後退してもインフレ率を引き下げるために利上げを続ける」という決意表明です。経済指標が相次いで下振れた6月下旬から7月末にかけては、FRBが景気に配慮して2023年前半に利下げを開始するとの見方が強まり、米10年金利は3.5%から2.6%まで低下し、それを追い風に米国株は上昇しましたが、パウエル議長の発言はそうした早期利下げ観測を蹴散らすものでした。かつてパウエル議長は、自身の発言が株価下落を招かないように配慮する観点から、金融引き締めに際しては慎重に言葉を選び、株式市場に対して「優しい議長」を演じていましたが、今やその面影はありません。
インフレ鈍化はまだ不明確
こうした政策態度に鑑みると、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)における利上げ幅の縮小は考えにくくなりました。7月FOMCの75bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)から50bpに利上げ幅を縮小する、その根拠がそろわないでしょう。食料とエネルギーを除いたコア物価の上昇率は直近数カ月伸びが鈍化しているとはいえ、まだそれほど明確ではなく、また家賃や賃金上昇率が高止まりしていることを踏まえると、インフレ鈍化に確信を持てる状況にはありません。7月までのコア物価の前年比上昇率縮小を以ってインフレ沈静化の証左とするのはやや無理があるでしょう。 今後発表される8月雇用統計が極端に弱い結果になる、あるいはISM製造業景況指数が50を割れるなど景気減速を象徴する数値が出たとしても、上述の「(インフレ抑制には)トレンドを下回る成長が一定期間持続する必要」という覚悟に照らし合わせると、その段階で景気に配慮して利上げ幅を縮小することは齟齬(そご)が生じます。利上げ幅縮小が本格的に検討されるのは11月FOMCになるでしょう。もちろんエネルギー価格の動向次第ではあるものの、その頃にはインフレ鈍化を示すデータが増加し景気後退の足音も大きくなっていると思われます。