円安阻止へ日銀は利上げするべきなのか?
急激な円安を抑えるために、日銀は現在の大規模な金融緩和政策を転換すべきなのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
将来的な利下げに含み持たせる表現
日銀は7月15日に開催された金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定しました。短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール政策を続け、また将来の政策指針を示す文言、いわゆるフォワードガイダンスも以下のとおり据え置かれ、将来的な利下げに含みを持たせる表現が残りました。 「新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」 そうした日銀の金融政策については、マスコミ報道を中心に「円安を助長し、輸入物価上昇に拍車をかけている」との批判が強まっています。それは取りも直さず、内外金利差の拡大が自国の通貨安要因になるとの見方に基づいているからです。 実際、直近4カ月間に急速なペースで進んだ円安の背景には、日本の長期金利が0%近辺に張り付く中、米FRB(連邦準備制度理事会)の金融引き締め観測が急激に高まったことで米長期金利が上昇し、その結果として日米金利差が拡大したという事実があります。日銀の金融政策が当分の間変わらないとの予想を前提に、低金利の円が売られやすい環境が長く続くと考えた投資家が円売り・ドル買いをした模様です。そうした中でドル円は一時140円に迫る場面もありました。
日米金利差だけが円安の要因ではない
もっとも、為替の変動は日米金利差だけで綺麗に説明することはできません。過去には為替と日米金利差の関係が希薄だった時期も多くありました。例えば2018年11月から2020年2月のコロナショック直前にかけてです。この間、米長期金利は3.2%程度から1.5%程度まで「大幅」に低下したものの、ドル円は115程度から105程度まで「小幅」な変動に留まりました。また同期間中には日米金利差が縮小しているにもかかわらず、ドル高円安が進行した時期もありました。現在の米ドルがそうであるように金利の高い通貨におカネが流れることで通貨高が生じる、といのうはよくある現象ですが、一方でそれが当てはまらないこともしばしばあるということです。 その点、黒田総裁が金融政策決定会合後の記者会見で示した以下の見解は大いに参考になります。記者からの「円安を阻止するために金融緩和を止める、あるいは利上げする必要があると認識しているのか」という質問に対して、黒田総裁は「今の円安というのは、実はドルの独歩高です。ユーロやポンドも大きくドルに対して下落しています。ご承知のように英国は5回金利を既に上げています。それからユーロも今月から金利を上げるということで、そういった通貨も同じぐらい下落しています。確かに円の対ドル下落のきっかけというか、マーケットの考え方には、日米金利格差があったと思いますが、実際のところ、世界的にドルの独歩高で、皆、為替が安くなっています。例えば、隣の韓国は相当金利を引き上げていますが、ものすごい勢いでウォン安になっていますので、金利をちょっと上げたらそれだけで円安が止まるとか、そういったことは到底考えられません。本当に金利だけで円安を止めようという話であれば、大幅な金利引き上げになって、経済に大きなダメージになると思います。(中略)金利格差が拡大していない英国とか韓国ですら大きく下落しており、おっしゃったような政策が合理的にあり得るとは考えていません」と答えました。