急激に進む円安は止められない? 今さら聞けない為替のキホン【Q&A】
円安が急激に進行しています。9月7日には一時144円台に突入しました。いまなぜ円安が進むのか。円安を止める効果的な対策はあるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【画像】円安阻止へ日銀は利上げするべきなのか?
Q:円安の基本的な背景と見通しは?
A:FRBの金融引き締めによって米国の金利が上昇しています。米国の短期金利(政策金利、翌日物金利)は年末まで3.5~4%程度への引き上げが見込まれている反面、日本はマイナス0.1%で不変の見込みです。長期金利(10年金利)は米国が3%超で推移する一方、日本は日銀が0%程度に誘導しているため、短期金利で見ても長期金利で見ても、日米金利差が拡大しています。このことは金利収入という点において通貨ドルの魅力が増し、円の魅力が低下することを意味します。 また日本政府の為替介入(ドル売り・円買い)と日銀の金融引き締めのどちらも想定しにくいことから、投機筋が安心感を持って円売りポジションを膨らますことができる、という事情もあります。当面のドル円は140もしくは140を明確に上回る水準で推移しても不思議ではありません。
Q:なぜ政府と日銀は動かない(動けない)?
A:9月8日に財務省、日銀、金融庁は急速な円安に直面して3者会合を実施し、為替市場に対して「この動きが継続すれば、あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応をとる準備がある」として牽制球を投じました。もっとも、政府と日銀は過去の経験や現在のドル独歩高の状況に鑑みて、本音では為替介入や金融引き締めによって円安トレンドを反転させるのは難しいと思っているでしょう。為替介入は期待される効果が乏しい上、国際的な立場が悪くなるという副作用があり、また金融引き締めは国内景気の減速という代償を払う必要があります。
Q:円買い・ドル売りの為替介入があった場合はどうなる?
A:為替介入の規模は小粒になる可能性が高く、あまり効果が期待できません。ドル売り・円買い介入の原資となる日本の外貨準備高は総額こそ約1.32兆ドルと巨額ですが、そのうち約1.06兆ドルは外貨証券(≒米国債)であり、円買い・ドル売り介入に即時利用可能とみられる外貨預金は0.14兆ドル(約19兆円)に過ぎません。外貨預金を使い果たした後に更なる円買い・ドル売り介入を実施するには米国債の売却が必要になります。その障壁が大きいことは火を見るよりも明らかです。 というのも、インフレ抑制の観点からドル高を歓迎している米国を刺激してしまう恐れがあるほか、日本の米国債売却が米金利上昇を誘発し日米金利差拡大を助長するとの連想が生じることで、逆噴射(円安要因)にもなりかねないからです。為替介入の費用対効果は決して魅力的とは言えません。