いつか壊れる金属材料 「錆」から建造物をどう守る?
私たちの生活を支えているあらゆる道具や構造物は、極端に言えば「材料」、あるいは「材料の集合体」だ。この意味で、人類の営みは材料によって支えられているといっても過言ではない。しかし材料には寿命がある。 「洗濯ばさみを開こうと力を入れたらプラスチック部分が折れた」「自転車を漕いでいたら金属チェーンが切れた」といった経験はないだろうか? 洗濯ばさみの例であれば大したことはないと思われるかもしれないが、自転車チェーンの破損は一歩間違えば事故につながる。材料が壊れることによる被害を防ぐためにはどうすればよいのだろう。
例えば、2012年に中央自動車道で起きた笹子トンネル天井板落下事故のような取り返しのつかない事態を起こさないために、2014年度から国はもちろんのこと、地方自治体の管理するすべての橋梁とトンネルなどに対し、5年に1度の近接目視点検が義務付けられた。2017年度までに、全国の72万を超える橋梁の約80%で点検が実施され、そのうち約10%に早期措置・緊急措置が必要と結論付けられている(※1)。 この制度が始まって5年が経った。すなわち、すべての点検が一通り行われたことになる。例年通りであれば、結果は今夏に公開されると考えられる。現代の生活がどれほど科学技術に支えられているか、これから私たちが科学技術とどのような関係を持っていけばいいのかをあらためて考える機会になるはずだ。 そのきっかけとして、数ある材料研究の中から、金属が「錆(さ)びる」という現象に焦点を絞って紹介したい。新材料の開発や人工知能、ドローンを活用したインフラ点検などのようなメディアで取り上げられやすい材料研究と比べると少し「地味だな」と思われるかもしれないが、現在すでにある建築物などをいかに守るかを考えればこうした研究は欠かせない。
金属材料を劣化させる「錆」
考古学に「青銅器時代」という時代区分があるように、金属と私たちの関係はとても古く、現代においてもビル、橋、車、電子機器の材料など、金属は人類にとってかけがえのない材料である(現代も広義では鉄器時代と呼ばれる)。そのため人類はこれまで、金属材料の性質を変えてしまう「錆びる」という現象と上手く付き合ってきた。 例えば、大阪城の銅瓦の美しい緑青、釘が抜けにくくなるようにわざと発生させる錆など、錆を積極的に活かしている例も少なくない。 しかし多くの場合、「錆」は金属材料を劣化させるためにやっかいなものとして扱われる。読者の中にも、錆防止のために金属製品を塗装する手入れをした経験のある人はいるだろう。