いつか壊れる金属材料 「錆」から建造物をどう守る?
「すぐには役立たない」研究が支える社会
「杞憂」が天地崩墜(ほうつい)を憂いても仕方がないという故事成語であることは有名だ。橋梁(2メートル以上)のみに絞っても、2023年には建設後50年が経過するものが17万を超える現代において、「天地」を「材料」に置き変えて考えると、決して取り越し苦労とは言い切れない問題だ。「すぐに役に立つ」研究が現在強く求められているのは、こういった背景もあるだろう。 しかし実情として、私たちの安全は、今回紹介したような地道で縁の下の力持ち的な基礎研究など、さまざまな研究が絡み合うことで支えられている。「すぐに役に立つ」研究のみに注目しすぎる社会になると、近い将来、杞憂が杞憂で終わらなくなるかもしれない。科学技術に大きく依存した社会を生きる私たちは今後どういった選択をすべきだろうか。
【謝辞】 記事の執筆にあたり、国立研究開発法人 物質・材料研究機構の片山英樹博士に大変お世話になりました。この場をお借りして熱く御礼申し上げます。 《編注・参考文献》 (※1)道路メンテナンス年報(平成29年度、国土交通省) (※2)三沢俊平「鉄鋼の湿食形態と腐食生成物」 日本金属学会会報, 1985, 第24巻, 第3号, p.201-210 (※3)ISO9223について(International Organization for Standardization) (※4)T. Shinohara and co-workers, Atmospheric corrosion behavior of galvanized steel sheet in asia, Proc. of Galvatech 2017, 2017, 148-155
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 梶井宏樹(かじい・ひろき) 1990年、茨城県生まれ。専門は化学。筑波大学大学院で修士(理学)を取得後、企業で貴金属製錬に携わる。「化学と人をつなぐ」という夢を追い、2016年4月より現職