いつか壊れる金属材料 「錆」から建造物をどう守る?
場所が違えば錆び方も違う
上記のような暴露試験は、1つ1つの材料に対して、使用される場所ごとに行うのが理想だが、時間や試験場所、設備の確保といった状況から現実的には難しく、どうしても別の手法も組み合わせることが必要となる。例えば、ISO9223(※3)という国際標準から、材料が使用される環境で計測された温度、湿度、塩分量などのデータを用いて錆びやすさを6段階で分類することができる。 この予測が的確であればあるほど材料の適材適所が可能となり、維持管理もより適切に行うことが可能となるはずだ。しかし、この国際標準に基づく予測と実際に行った暴露試験の結果を比べると、日本や東南アジアはISO9223では分類できないほど環境の厳しい地域があることが近年分かってきた(※4)(日本では10年以上前からこのズレが指摘されているそうだ)。 この理屈は至ってシンプルだ。ISO9223は、世界52か所での暴露試験の結果を基に作られたが、試験場は主にヨーロッパだ。すなわち、日本や東南アジアよりも海の影響が小さい地域での結果を基にした標準だからである。
場所が違えば、材料の錆び方は違うのだ。それはヨーロッパやアジアといった大陸のような大きな地域に限った話ではない。日本国内でも場所によって錆び方は変わる。画像は、沖縄県宮古島の試験場で暴露試験を10年間実施した金属試料だ。上記のつくば市で実施した試料と同じ種類のものを同じ期間、同じ方法で大気中に曝(さら)したものだが、比べると錆び方が大きく異なることが分かるだろう。 これから先も、あらゆる地域で画一的な国際標準を当てはめ続けて良いのだろうか。日本国内でも、地域ごとの金属材料の錆び方をもっと正確に予測できれば、効率的な予防保全や点検につながる。結果として修繕費用が抑えられ、地方自治体などの負担を小さくすることも可能となる。私たちの安全を支えるため、こういった材料研究が今も進んでいる。