なぜ那須川天心はボクサー仕様に進化し45連勝を果たせたのか…注目のK-1武尊戦は「(交渉)テーブルについていない」
立ち技格闘技「RISE」のワールドシリーズ2021横浜大会が23日、横浜のぴあアリーナMMで行われ、キック界の“神童”那須川天心(23、TARGET/Cygames)が6年前に対戦して1ラウンドKO勝ちしている第7代RISEバンタム級王者の鈴木真彦(24、山口道場)と3分3ラウンドのスペシャルマッチで対戦し、3-0判定で勝利、総合の試合も合わせて連勝を45に伸ばした。 来春にはボクシングに転向する那須川は、早くも「触らせずに勝つ」というボクシング仕様への進化を見せ、ダウンシーンはなかったが、内容的には圧倒した。キックの試合は残り2試合。気になるのはK-1王者、武尊(30)とのビッグマッチの行方。天心の次戦は大晦日の総合格闘技イベント「RIZIN」になる方向だが、武尊戦についてはRISEの伊藤隆代表は「(交渉)テーブルにもついていない状況」であることを明かした。
触れさせずに勝つ
触れさせずに勝つ――。 “キック卒業”を前にして天心が新しい領域に突入した。KO決着はできなかったが、圧巻の3-0判定で、はからずも伊藤代表が「天心が進化して違う領域にいった。当てさせずに当てる」と総括した究極のスタイルで、鈴木の6年越しのリベンジを返り討ちにしたのである。 ゴングと同時にブンと音がするような凄まじい左のパンチを放ち、鈴木の機先を制した。右の正確なリードブローから“狂暴な左”を何発も。一発を狙いすぎたためクリーンヒットはなかったが、「もっと勝負に出てよかったが、そうさせない天心の強さを感じた」と、鈴木が振り返る“抑制効果”があった。 2ラウンドには、バックブローでバランスを崩させ、必殺の胴回し回転蹴りで場内を沸かす。パンチを警戒され、切り崩せないとみるや、天心もカウンター戦法に切り替えたが、鈴木が繰り出す左右のパンチをストップモーションでも見るかのようにヒョイヒョイと外した。しかもステップバックではなく“前”でダッキングしてパンチを当てさせなかった。 「試合をした感がなかった。全部がゆっくりだった感じがした。全部が見えたというか、相手がやりたいことがすごくわかった」とは、天心の試合後の感想。まるでZONE体験だ。 敗者が言う。 「自分で当ててよけるのが上手い。その距離感を肌で感じた」 鈴木は、ボクシングの元世界3階級制覇王者、長谷川穂積氏に教えを請い、サウスポーの天心対策を準備してきた。だが「長谷川穂積さんにお世話になり色々と準備してきたが何も試せなかった」という。そのひとつが、天心の右のジャブに右のフックを合わせるというものだったが、ジャブの角度とスピード、そして距離感についていけず使うことができなかったという。 天心はラスト30秒で「触れさせず勝つ」スタイルを捨てガードを下げて本能むきだしに猛攻撃を仕掛けた。倒しにいったのだ。KOシーンは、見せることはできなかったが、これこそが天心が格闘技ファンの心を惹きつける理由である。 天心は、「パンチを意識しすぎた。もっと蹴って試合を作らないと。ボクシングに転向すると言ったので意識はする。むずいですね。葛藤がある」と素直に胸の内を打ち明けた。 ハイキックも数発決めたが、パンチ攻撃が、9分間の戦いの多くのパーセンテージを占めた。 「ボクシング練習が増えている。キックの練習が減ったわけではなく、今までにプラスしてボクシングをやっているので、意識はしてしまう」 WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太らが所属する名門の帝拳ジムへ通い、着実にボクシング転向への下準備を進めており、今回披露した「触らせず勝つ」スタイルは、よりディフェンスが重要視されるボクシング仕様とも言える。