【特集:ニッポンAIの明日】第1回 生成AIに立ち後れた日本の活路は―スタートアップを生み出す研究者、松尾豊さん
今、人工知能を意味する「AI」という言葉を聞かない日はない。2022年11月、米オープンAIが生成AI「チャットGPT」を公開して以来、一般の人たちもAIを活用するようになった。しかし、その技術の多くは米国発のもので日本は立ち遅れているのが現状だ。「ニッポンAI」の明日は。AI関連スタートアップを生み出している東京大学の松尾豊教授に聞くと、非常に厳しい戦況下で活路を見いだそうとする現場の様子が浮かび上がった。
技術と資本を融合しないと勝てない
―生成AIの研究開発において、日本は世界的に見てあまり良くない状況だと思うのですが、その理由は何でしょうか。
生成AIの研究開発はグローバルに進んでいます。ただ、簡単に言ってしまうと、GAFAMに代表される巨大IT(情報技術)企業が圧倒的に強いです。大規模な計算機やデータを使って新領域を切り開くという開発は、今は完全に巨大IT企業しかできません。日本は、ほぼ太刀打ちできない状況です。これは、当たり前と言えば当たり前の結果なのですね。
2005年から07年まで米スタンフォード大学で客員研究員をしていました。シリコンバレーにある大学なので周辺にはIT企業がたくさんあって、当時はグーグルやフェイスブック(現メタ)がものすごい勢いで巨大になっていました。グーグルのキャンパスに行く度に、「あのビルもグーグルになったのか」という感じで。
周りにいた研究者も所属が大学からグーグルに次々に変わっていきました。グーグルのような企業では、巨大な資本が技術の事業化へ明らかに流れ込んでいて、計算リソースやデータの量が半端じゃないという感じでしたね。やがてウエブの検索やマイニングに関する世界トップレベルの研究はそこでしか行えないという状況になっていきました。
その様子を目の当たりにしたとき、この分野での競争は技術と資本が融合しないと勝てないと思い知りました。これからは一人の天才が画期的なアイデアでイノベーションを起こして世界を変えるということは、もうない。技術と資本が結び付いて初めて大きなイノベーションを生み出せる時代に変わったのだということを、2006年ごろの時点でまざまざと感じました。