【特集:ニッポンAIの明日】第1回 生成AIに立ち後れた日本の活路は―スタートアップを生み出す研究者、松尾豊さん
今、松尾研では「グローバル消費インテリジェンス寄付講座(GCI)」などのAIに関する講義をオンラインで開き、今年は年間2万5000人以上の学生(中学生以上)や社会人にAIの基礎を教えています。受講者は毎年2倍ずつ増えています。ここで学んだ学生たちの中にはスタートアップを立ち上げる人たちもいて、これまで26社が出ています。そのうち2社は上場しています。
松尾研発のスタートアップの一つである「ELYZA(イライザ)」(東京都文京区)は、日本語のLLM(大規模言語モデル)を開発してGPT4(オープンAIの最新版自然言語処理AIモデル)より高い精度を出すなど高い技術力を持っていますが、最近KDDIグループに入り、生成AIの技術開発の中心を担っています。松尾研からのスタートアップは、今後さらに数を増やして、近い将来には年間100社に増やしたいと思っています。
ただ、何度も言いますが、米国に比べたら規模的に大きく負けていて、戦いにはなっていません。しかし、多くの学生が集まって学び、優秀な人材が育って最前線で活躍するような補給路を作ることで、成果が多少出るようになってきました。全体が指数的に大きくなるように設計していますので、今後、さらにインパクトは大きくなるはずです。
“■松尾研発スタートアップ(R)「ELYZA」 日本語LLMに焦点を当てた研究開発を行う。「ELYZA LLM for JP」は米・メタが開発したAIモデル「Llama」を土台に日本語の追加事前学習と指示学習を施した。グローバルモデル以外の新たな選択肢の提供を掲げ今後は海外のオープンモデルの日本語化や独自LLMの開発、企業向けサービスの展開などを見込む。”
現状を歪めずに正しく認識することから始まる
―今の日本にとって何が一番大事なのでしょうか。
まず現状認識ですね。多くの場合、人は自分の見たいように現状や世界を歪めてしまいます。「敵を知り己を知れば百戦殆からず」という言葉がありますが、いつも意識している言葉です。正しく状況を認識すれば、自ずと勝機が出てくると思っています。 では、これから日本がAIでどうやって世界で勝つのか。正直、とても難しい。よく「勝ち筋はなんですか」と気軽に聞かれるのですが、そんなものはありません。