【特集:ニッポンAIの明日】第1回 生成AIに立ち後れた日本の活路は―スタートアップを生み出す研究者、松尾豊さん
「兵たん」の重要性と言っても良いと思いますが、リソースを大量に送り込むための補給路が最重要で、そこで勝敗が決まるということです。AIの開発なら、例えば人材やGPU(画像処理装置)、データなどです。だから日本に帰ってきて、大学での教育研究と企業での事業化がスムーズに連携するような、技術と資本が融合するエコシステムを整えようと取り組み始めました。
でも、理解されないことがすごく多かった。技術と資本が融合することによってイノベーションが起きるという時代になりつつあった20年前、日本はその考え方に全くついていけませんでした。今、AIの技術を先導しているのはGAFAMなどの巨大IT企業、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの巨大な投資に支えられるスタートアップなど、大資本に支えられたプレイヤーですが、当時からこうなることは目に見えていたわけです。
弱いなりに合理的な戦い方を一つ一つやるしかない
―厳しい状況にある日本ですが、ご自身の研究室「松尾研」からは今、若い人たちによるスタートアップが次々に誕生していますね。
客観的に見れば、日本は圧倒的な差で負けています。日本の中で松尾研が多少、善戦しているように見えるとすれば、それは20年前から、技術と資本の融合を意識し続けてきたからだと思います。もちろん日本全体でスタートアップも増えてきて、イノベーションに対する意識も変わり、少しずつ変化してきていると思いますが、全体としては圧倒的に負けています。
ただ、そうした「圧倒的に負けている」という現実をしっかり認識することから、次の一手が見えてくると思っています。では、どうすれば少しでも戦況が良くなってチャンスが少しでも生まれてくるようになるのか。一つは、技術を作ることができる人を増やすことです。
かつて、日本の自動車産業は国際的にとても弱かったけれど、それでも日本人は技術者を育てて自分たちで自動車を作り続けました。今は負けているが、未来が少しでも良くなるようにと長期的な視野で教育に投資することは、弱いなりの合理的な戦い方なのです。