【特集:ニッポンAIの明日】第1回 生成AIに立ち後れた日本の活路は―スタートアップを生み出す研究者、松尾豊さん
大事なのは、状況を正確に認識し、冷静に分析し、弱いながらもできることを考え、実行していく。そして、ただただ合理的な正しい手を一つ一つ打っていく。
新しい技術にできるだけ早くキャッチアップする、グローバルな動向を把握し良い取り組みがあれば真似をする、若い人の能力を最大限発揮させる場を整える、事業化のために資本が流れ込む仕組みを作るとともに長期の研究を大事にする、そんな当たり前のことを地道にやっていくだけです。
それから若い人へのメッセージですが、科学技術には力がありますし、若者には力があります。しかし、日本中で歪めた現実を見てしまっているから、優秀な日本の若者も現実が見えなくなっていると思います。国が駄目でも組織は成長できます。また、国や組織が駄目でも個人は成長できます。主語をどのように置くか。国や組織に置いてはいけません。主語を自分に置いて、その上で活躍をして欲しい。
生成AIに対する国の動きは速い
―松尾さんは、国の「AI戦略会議」の座長を務めていらっしゃいますね。
はい。そこでも日本がデジタルの分野において負け戦になっているということはきちんと伝えています。その上で、弱い者なりに取るべき手、打つべき手を地道に打つしかありませんが、これまでのところしっかり最善手を打てていると思います。
日本が生成AIの開発をしたいと思うのであれば、例えばGPUをきちんと確保しなくてはなりません。各国がGPUを争って買うような状況で、もうそれは熾烈な競争になっています。しかし、きちんと国が努力を続けることで、日本のGPUのリソースは、この2年で相当に増やすことができました。
“■AI戦略会議で示された「可能性」 2024年5月22日に開かれた内閣府の第9回AI戦略会議で座長の松尾さんから「生成AIの産業における可能性」として、日本が取るべき合理的な方策についての考えが示された。その中でGPUの増強、リスクへの対応、グローバルな議論のリーダーシップ、AI戦略会議での議論などを指摘。また、オープンAIなど海外の巨大IT企業・スタートアップが日本に拠点を置きはじめるなど日本の存在感が増していることに加え、国内企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化の遅れが逆にAI活用の伸びしろにもつながると示唆した。”