なぜ小林陵侑は24年ぶりの五輪ジャンプ金メダルを獲得できたのか…ライバルが苦しんだ追い風を味方につけた最強技術とメンタル
北京五輪のスキージャンプ男子個人ノーマルヒル決勝が6日、河北省張家口市の国家ジャンプセンターで行われ、2大会連続出場となるW杯通算26勝の日本のエース小林陵侑(25、土屋ホーム)が1回目104.5m、2回目99.5mの計275.0点で金メダルを獲得した。ジャンプ男子の金メダルは、1998年の長野五輪ラージヒルの船木和喜以来、24年ぶり。ノーマルヒルでの金メダルとなると、当時70m級と呼ばれていた1972年の札幌五輪で表彰台を独占した際の笠谷幸生以来となった。しかも、その日が50年前の2月6日という運命的な巡り合わせだった。小林は今日7日の混合団体、12日決勝の男子個人ラージヒル、14日の男子団体と3種目に出場予定で最大4冠の可能性がある。
金メダル第一声は「暑い!」
“令和の鳥人“は冷静に自分と向き合っていた。 まるで空飛ぶ円盤のようなデザインの控室では、他の選手を目で追うこともなく、ひとり瞑想に入り両手を広げて目をつぶった。数年前から所属の土屋ホームではメンタルトレーニングの専門家を迎え、「緊張しやすい」という小林は、プレッシャーをコントロールできるようになっていた。トゥビート(金メダルライン)は98m。1回目に104.5mを飛んだ小林の実力からすれば難しい飛距離ではないが、ミスは許されない。 暫定1位は1回目に102.5m、2回目に104mを飛んでいたオーストリアのマヌエル・フィットナーだった。しかも追い風が吹く。 アプローチ。助走速度は87.6キロだったが、踏み切りのタイミングが少し遅れた。だが、空中に飛び出してからが小林の真骨頂である。95mに設定されていたK点を過ぎてから伸びた。俯瞰で見るとやや右へと流れていた。力まずラージヒル側かの横風をうまく利用していた証拠。98mのVラインを越える99.5mで着地。綺麗にテレマーク姿勢を入れた小林は、「ウオー!」という雄叫びと共に渾身のガッツポーズ。走り込んできた兄の小林潤志郎(30、雪印メグミルク)と抱き合い喜びを爆発させた。 インタビュースペースにやってきた小林は、氷点下12度の極寒にもかかわらず「暑い!」と漏らした。体からは湯気が上がる。金メダリストは、まだ燃えていた。 「いやあ。2本ともいいジャンプをそろえられたので、すごくうれしいです」 インタビュアーが「ここまでの道のりを振り返って、今の思いを聞かせてください?」と涙を誘ったが、「ノーマルヒル個人、いいジャンプをできたので、また次の試合につなげたいと思います」と答え、聞き手を「もう思いは次の試合に向かっているんですか?」と戸惑わせた。 「そうですね。この”金メダル”という結果をすごくうれしく思って、次からもがんばっていきたいですね」