「中高一貫」伝統校が社会の防波堤=学校を守るために始めたこととは?
キャリアコンサル経験と2冊目の著書
――退職後はキャリアコンサルタントに転身されましたね。 水野 県立校での経験から、キャリア指導が面白くなりました。松戸国際で定年を迎えましたので、キャリアコンサルタントになろうと、最後の1年間は週末に神田のビジネススクールに通って資格を取りました。 定年退職後、松戸にある聖徳大に半年ほどいたところ、名古屋市がキャリアナビゲータという名称で、キャリアコンサルタントの運用を開始するというので、その1期生に応募しました。米国の小中学校では当たり前に行われているというキャリア教育を、河村たかし市長が名古屋市の公立校にも導入しようという大胆な政策でした。私は愛知県出身なのですが、ちょうど父の具合も悪かったので地元に帰ろうと。 ――そんなことがありましたか。 水野 当時、名古屋市の公立校で、いじめや児童の自殺などが幾つか起きていました。保健室のカウンセラーと一緒にキャリアカウンセラーも配置し、校長の意を受けてキャリアをサポートしていく支援を2019年から始めました。小中高2校ずつの実験校で導入後、最近ではすべての中高に置くように発展しているようです。 ――ところで、伊豆文学賞を受賞した後、もう1冊書かれましたね。 水野 SDGsと環境問題をテーマにした『ツバサの自由研究』(出窓社)です。日本図書館協会と全国学校図書館協議会の選定図書になりました。翌年、埼玉県の高校入試問題(大問1配点25)になり、驚きました。 ――小説の背景には東日本大震災があるとか。 水野 校長2年目、3.11(東日本大震災)の時です。気仙沼高校(宮城県)にご支援の気持ちを持参してうかがいました。しかし、仮に自分の年収を全部差し出しても仮設住宅の1戸も建たない。個人の力は小さいなと、そこで思い知らされました。
明星の教育に演劇を取り入れていく
水野 大学の文学部の同級生で俳優・映画監督の塩屋俊が「この小説を映画にしないか」と言ってくれ、脚本づくりもスタートしました。 ところが、それから程なく彼は亡くなり、この話は実現しませんでした。彼はハリウッドでの出演経験もあり、その人材育成システムを日本でも実現しようと「アクターズクリニック」を立ち上げ、鈴木亮平、桐谷健太、向井理、相武紗季、木村佳乃、深田恭子、樹里のみなさんほか多くの俳優を育成しています。松戸国際高校出身の長谷川京子さんも教え子と聞きました。 ――そうそうたる人たちですね。 水野 オーディションで選ばれた俳優さんなどが典型ですが、短期間できちんと演じられるようにしてくれ、といった依頼が来るそうです。アクターズクリニックは後継の方が現在も運営しています。 海外では義務教育でも当たり前の演劇を、明星でも取り入れていきたいと思っています。平田オリザさんや蓮行さんが提唱、実践されていますが、学校でも教えれば、コミュニケーション力やいじめの問題解決にも結び付いてくると思います。