日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」とは? 中国は「一帯一路」主導
日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」という構想があります。菅義偉(よしひで)首相は1月18日の施政方針演説で、米国やASEAN(東南アジア諸国連合)、豪州、インド、欧州などと協力を深め、これの実現を目指すと訴えました。もともとは安倍晋三前首相の時代に打ち出された戦略ですが、どういうものなのでしょうか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【図解】“陸と海のシルクロード”中国の「一帯一路」構想とは?
法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序
菅首相は施政方針演説の中で、日米同盟は我が国の外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域、さらには国際社会の自由、平和、繁栄の基盤だと強調しつつ、「世界の活力の中心であるインド太平洋地域では、法の支配に基づく自由で開かれた秩序の形成が極めて重要です。米国をはじめ、ASEAN、豪州、インド、欧州などとの協力を深化させつつ、より多くの国・地域とともに『自由で開かれたインド太平洋』の実現に取り組んでまいります」と述べました。日本がこれまで唱えてきた「地球儀を俯瞰する外交」や「積極的平和主義」の方針は維持しつつ、太平洋からインド洋に至る海域の重要性をあらためて強調したのです。
「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open Indo-Pacific = FOIP)とは、安倍前首相が2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)の場で提唱したものです。インド太平洋地域は安全保障面で厳しい環境にあり、海賊、テロ、大量破壊兵器の拡散、自然災害、違法操業といったさまざまな脅威が顕在化しています。「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、この地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することを目指し、諸国に協力を呼びかけています。
またアジアとアフリカという「2つの大陸」、太平洋とインド洋という「2つの大洋」をそれぞれ結びつける狙いもあります。具体的なプロジェクトは多数に上りますが、数例だけを挙げると、フィリピンにおける道路橋梁建設、インドネシアにおける大学整備、ベトナムでの国際港建設、インドにおける高速道路建設、パキスタンにおける環境モニタリングセンターなどに協力しています。 2020年10月、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国の外相による会合が東京で開かれ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた結束を確認し、今後、会合を定例化することを合意しました。